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第159話 ルルシア①

(良かった、ノア様はそこまで気にされてないようで。)


 ルルシアは食堂で一人食事をとりながら、ほっと胸をなでおろす。


 フェンの事件はそう簡単に許せるほど自分の心に整理はついてはいないが、あの子も何とか回復はしそうだし。


 正直一発ぶん殴ってやりたいという気持ちがないわけではなかった。


 実際に、あの場でキルシェは私に対して謝罪をしていた。はたから見れば、それはとても紳士的な振る舞いで、自分の罪を認めた正当な対応に見えただろう。


 だが、実際にあの場で、被害者として受けた立場として言わせてもらえば――あの男は、とても本心からそう思っているようには到底思えなかった。


(……駄目だね、心が狭い狭い! そんなんだからノア様にもまだ認めてもらえないのよ! そりゃ社交辞令でまた戦いたいって言ってくれたけど……あれはノア様の優しさで! こんなんじゃ、あの優しさを受ける資格がないぞ、ルルシア!)


 そう。なにより今は、時期が悪い。


 私たちもその一端を担ってしまってはいるけど、ここ最近以前にもまして一部の貴族たちの圧を感じるようになった。


 そりゃあ、ノア様が活躍したんだから、平民だって盛り上がるに決まってる! それなのに……まったく、なにがノブレスオブリージュよ、聞いてあきれるわ。


 だからこそ、こっちが大人の対応をしないとだめよね、うんうん。


 ノア様がきっと、その力であいつらを認めさせるに決まってる! 


 ……もちろん、貴族がとんでもない力を持っているのは知っている。彼らは何世代も前から魔術を極めてきた血筋だ。魔術の向き合い方で、私たち平民が及ぶわけもない。


 しかも、キルシェ・ウェルムシアは二年でもトップクラスの魔術の才能を持つと噂の名貴族。態度だけでなく、その実力も折り紙付き。


 一年の時点でテトラルクスの選抜メンバーに選ばれたほどの魔術師だ。正直、私とは天と地ほどの差がある。もしかすると、天とマントルくらい……。


 けど、ノア様だったら……。もしかしたら、上の学年相手にだっていい勝負をしてしまうかもしれない。それほど期待をしてしまう。


 あの新人戦での輝きが、ただの生徒Aだった私に希望を見せてくれた。無名だって、平民だってやればできるんだと。


 二年からのカリキュラムは、一年をはるかに超える。だからこそ、一年と二年の間には途方もない壁がある。それでも――


「期待しちゃうのは、推しだから……かな? ふふ、でもいいよね、信じるくらい! 推しを信じなくて何がファンクラブよ!」


 とその時、ちょうど食堂へやってくる不快な影を視界にとらえる。

 ぞわっと体中の毛が逆立ち、心臓がドクンと一度高鳴る。


 いやでも、もうその姿に無意識に脳が反応する。

 そのお高く留まった、まさに貴族然とした姿。


(キルシェ……!)

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