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急転

 翌日、暗い顔をしたルルシアは申し訳なさそうに俺の元へとやってくる。


「すみません、ノア様……。私のせいで」


 その顔は生気が足りていない。


「別に俺に謝る必要はねえよ。誰に謝る必要もないさ」

「そうですけど……」


 普段あれだけ明るい奴だからこそ、なんともこのしゅんとした態度に俺も少し気持ちが引っ張られる。


「むしろ、あの貴族……キルシェとか言ったか? あいつが何を企んでいるのかまだ見えない。あれが偶然の事故とは思えねえ。何か問い詰めた方がいい」

「…………ですけど、私はもうこれ以上話を広げるつもりはないです。ただでさえ今、貴族と平民の間で見えない火花が散っていますし……」


 そうらしいのだが、正直俺にはあまり興味がない。

 だが、当の本人が事を荒立てたくないと、そういっているのだ。俺がこれ以上口出しをする意味もないか。


「……そうか。それで、フィンはどうだ? 魔獣医師の先生が、まだ息があるとか言ってたけど」

「一命はとりとめました。ただ、躊躇のない魔術を受けて、今はまだ目が覚めていないです……」


 その顔にはよく見ると隈が出来ていた。夜通し見守っているのだろう。


「そうか。お前の魔術は珍しいからな、まだまだ見せてもらいたいし。だから、早く元気になるといいな」

「ありがとうございます、ノア様……ごめんなさい、朝からこんな! それではまた!」


 そういって、ルルシアは明るい笑顔を浮かべて、走り去っていった。


◇ ◇ ◇


 その噂は瞬く間に広まっていた。

 皆よくある事件の一つとして処理していたが、一部の生徒たちはその事件に不満を持っていた。


「ったく、最近平民が騒がしいな……立場を弁えてなさすぎる」

「お? お前ってそんな特権意識あったっけ?」

「いや、なんだかいろいろと最近起こってんだろ? 噂聞いてると、なんだかよ」

「この間は平民がなんか不正をしたって話だぜ?」

「またかよ……まったく、考え物だな。そろそろ、誰かビシッと指摘するべきだぜ」


 そんな会話が、ちらほらと聞こえてきていた。


「なんか不満を持ってる人もいるみたいだね……」


 ニーナは少し悲しそうに眉を顰める。


「まあ、俺はどうでもいいけどな。学校の風紀なんてどうだっていいさ。そんなくだらないことをしに来たわけじゃねえし」

「さすが、俺の認めた男だぜ!」


 そういって、アーサーはガシっと俺の肩を組む。


「だけどよ、その一端はお前にも多少はあるぜ?」

「俺?」

「そりゃそうよ! 平民が新人戦で優勝なんかしたんだぜ!? ファンクラブまでできて、そりゃ大盛り上がりよ。気に食わない貴族が出てきてもおかしくない」

「そんなもんか?」


 おう、とアーサーは自信満々にうなずく。


「ただまあ、基本的に貴族派の連中だな」

「貴族派?」


 聞いたことないな。


「知らねのか? 絲姫いとひめとかいうどえらい貴族が、貴族たちを集めて学院内のパワーバランスを握ってんのさ」

「都市伝説か何かか?」


 好きだな、そういうの。


「ちげえよ! 好きだけど! 本当にあるんだって」

「アーサーもその貴族派ってやつなのか?」

「俺だって出来るものならあんな美人に仕えてえよ!!」

「あんたねえ……」


 クラリスはため息を漏らす。


「だが残念、俺は特権ってのには興味なくてよ。この身一つで成り上がってこその、立身出世。それでこそ家の復興だろ!」

「はは、変わらねえな、アーサーは。でも、そうじゃない貴族連中もいるってわけか」

「もちろん私は違うよ、ノア君!」


 ニーナが慌てて口をはさむ。


「わかってるって」

「そして、ここで一人怪しい人物が……――なあ、ルーファウス!」」


 アーサーは前に座るルーファウスに話しかける。

 あれだけ入学当初は貴族然としていた男だ、向こう側でもおかしくない。


「そうなのか? お前って貴族派か?」

「あぁ? 何がだよ」

「ノアが優勝してむかつくかって話よ。平民が優勝して、最近調子乗りやがって! ってよ」

「当然だろ」

「そ、そうなのルーファウス君……?」

「勘違いするな、俺はそこら辺の家の名でしか威張れない連中とは違う。純粋に、俺の力が足りなかったことにいら立ってるだけだ。……そもそも、俺はそこの銀髪がどこの誰だろうが気にしない。貴族どもで徒党を組むつもりもない。我が家は魔術の名家だ、そのプライドにかけて貴様にリベンジするというだけだ」

「へっ……さすがだな」


 前からそうだったのか。いや、きっと入学当初はここまで言い切れなかったはずだ。

 少なくとも、俺に突っかかってきていたあの頃は、もっと盲目的に貴族を信じていたはずだ。

 いいね、面白い方に成長してるみたいだ。


「再戦が楽しみだぜ」

「こちらのセリフだ、バカ」


 まあ、全員が全員ってわけでもないってことだ。

 確かに、この間のキルシェ……だったか。あいつみたいに怪しい奴もいるし、そもそも最近の流れ自体なんだから作為的なものを感じなくもない。


 少しは注意しておくか。何があるかわからないしな。


◇ ◇ ◇


 ――数日後。


「おい、ノア!!」


 魔術理論の授業が終わり、一足先に教室を飛び出していたアーサーが、さっきまでのへらっとした表情とは打って変わり、緊迫した様子で教室へと舞い戻ってきた。


「どうした?」

「何、またノアに何か厄介ごとさせようってわけ?」

「そうだけど……ノアに関係するんだよ!」

 

 そういって、アーサーは一足で俺の元迄やってくる。そして。


「ルルシアちゃんっていたよな!?」

「ん? まあ」


 こいつ、相変わらず手が早いな……。


「大変なことになってんぞ!?」

「! ……詳しく聞かせろ」

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