偽りはない
俺は泣き崩れるルルシアの肩を抱き、正面の男を見据える。
金の長髪……三年か。
状況からある程度は察せる。おそらく、こいつがフィンを殺したのだ。
「フィンが……なんでこんな……!」
ひどい、致命傷だ。
全身が傷だらけ……風魔術特有の切り傷。執拗に攻撃されたことは明白。明らかな殺意……。
俺は男を睨みつける。
すると、男は予想外の行動に出る。なんと、頭を下げたのだ。
「申し訳ない! 殺すつもりはなかったんだ……!」
「!」
「キルシェ様! そんな、平民相手に――」
とその後ろの男が口をはさむが、キルトはそれを制しする。
「全面的に僕が悪いんだ。今貴族だ平民だというのは関係ない。――すまなかった」
引き続き頭を下げるキルシェに、周囲の人だかりもざわつきだす。
「貴族なのに、立派ね」
「プライドの塊かと思ってたけど、意外とそうでもないのか……?」
「謝って済む問題じゃねえだろ」
賛否両論の中、ルルシアは複雑な表情でジッとフィンを見つめる。
その顔は呆然としていて、現実を受け入れられていない。ルルシアの、俺の制服の裾を握る力が強くなる。
「赦してくれとは言わないが……せめて埋葬するお金は出させてくれ」
「……いらない……」
ルルシアがつぶやく。
「この子は……私の地元で……」
涙が溢れ、怒りと絶望の中で、ルルシアは必死に言葉を紡ぐ。
「どいて!」
そういって輪の中へ駈け込んできたのは、地下施設で働く魔獣医師の女性だった。
「リリカ先生……!」
「フィン……! ひどい傷、ちょっと見せてもらうわ」
先生は、フィンの身体を触り、口元や体に耳を寄せる。
「――まだかすかにだけど息がある……! でもこのままじゃ死んでしまう。急いで治療が必要よ!」
「助かるんですか!?」
「まだわからない、けど全力を尽くすわ」
そういって、先生は担架にフィンを載せると、地下施設の方へと急いで向かって行った。
ルルシアは、ジッとキルシェを睨みつけた後、急いでその後を追った。
「助かるの?」
「さあ……」
「けど、謝ったと言ってもさすがにねえ……」
「しょうがないだろ、魔物なんて見分けつかねえって」
いまだ賛否両論の声が響くが、その集団も徐々に散会していき、その場には貴族のキルシェ達だけが残った。
「……本当にわざとじゃないんだよな? 先輩」
「信じてくれ。殺すつもりはなかった――そこに偽りはない」
「…………ルルシアの使い魔だってことは知らなかった、そうですよね?」
「……まあいいじゃないか。あの魔物も助かりそうなんだ。君も、ついてあげた方がいいじゃないかな」
そういって、キルシェは俺の肩をポンと叩くと、その場を去っていった。
あいつ……。
まさか本当にルルシアの使い魔とわかったうえで狙ったんじゃ……。
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