見てる人
「ノア、お前も当然エントリーだよな?」
意気揚々としたアーサーが、俺の顔を覗き込む。
「まあ、個人戦ってのはちょっと興味あるな」
「いいね、張り合いがあるぜ!」
「あんたね、ノアに勝てる気でいるわけ?」
ムスッとした表情を浮かべるクラリスが、アーサーの顔を睨みつける。
「当然! 人は成長するもんだぜ、クラリスちゃん」
「そうだよ、確かにノア君は強いけど、私たちにだってチャンスはあるんだよ! クラリスちゃんも出るでしょ?」
ニーナに言われて、クラリスはふんと腕を組む。
「当然でしょ、代表は私とノアは確定みたいなものなんだから」
その発言に、アーサーはニーナをちょいちょいと引き寄せ、小声で話しかける。
「な、なあ……海の方に行った時から思ってたが、なんかクラリスちゃんのノアに対する態度が変わってねえか……?」
「わ、わかる……! なんか、どうしちゃったんだろう……」
「聞こえてるから。何よ、強い相手を認めることがそんなにおかしいわけ?」
「え、いやいや、そういう意味じゃ――」
「君もわかってると思ったよ、クラリスちゃん!」
「「!?」」
突然聞きなれない声が聞こえ、俺たちは声の主を振り返る。
そこに立っていたのは、見慣れない前髪ぱっつんの女子だった。
「誰がちゃん、よ誰が! ニーナ以外が気安く呼ぶんじゃないわよ!」
しかし、クラリスの様子は気にも留めず、少女は俺の方へ近寄る。
「ですよね、ノア様!」
「「「ノ、ノア様!?!?」」」
「……はあ?」
俺は思わずついていた頬杖からずり落ちそうになる。
何言ってんだこいつ……。というか、誰だ……別のクラスのやつか?
見たところ同じ一年っぽいが……。
「あんたに様と呼ばれる筋合いはない気がするんだが……」
「そんなことないですよ! 一年生にしてキマイラを退け、皇女を救い、あのベンジャミン家のドマさんや自警団のハルカさんすら虜にするその実力!! 様と呼ぶのにふさわしいです!」
少女は両手をがっしりと合わせ、祈るように手を上げる。
「……ノアばっかり!! なんか……ずるい!!」
アーサーのそんな悲痛な叫びもスルーされ、少女はさらに俺に近寄る。
「魔術覇戦祭ですよね、まさにノア様にふさわしき舞台! 絶対に本選出場待ったなしですよ!」
「あのなあ、そういう舐めた態度が足元掬われるんだぜ? 相手だって本気だろうし、やってみないとわからねえさ」
俺の言葉に、少女は恍惚とした表情を浮かべ、くらっと体を揺らす。
「さ、さすがノア様……まだ私が甘かったです……! ああ、今のお言葉を記録しておきたい!」
そう言って胸ポケットからメモを取り出す。
「い、いやいいよ別に……」
な、なんかこいつと話してると恥ずかしいな……。
「こら、ノア君を困らせたらダメだろ、ルル」
「あ、クロ君! ごめんなさい、我慢してたからつい……」
「また増えた」
追加で現れたのは、眼鏡をかけた男だ。身長はアーサーくらいはあるだろうか。
がり勉というよりも、頭脳系という言葉が合う。
「無礼を許してくれ。何も僕たちは君の気分を害したいわけじゃないんだ」
「別に気分は害してねえけど……僕たちね」
「あぁ、僕たちはとある集まりでね。夜な夜な集会を開いているのさ」
「集会?」
クロはうなずく。
なんだろう、嫌な予感がする。
「その名も――<ノアの箱舟>。女子生徒5名、男子生徒2名で構成された――ノア君の魔術に魅了された者たち……つまりファンクラブさ」
「ファンクラブ!? はあ!?」
何言ってんだこいつ!?
「ノ、ノアにファンクラブだと!? 俺を差し置いて!?」
「あんたは無理だって」
「いや、つっても俺の何がそんな……」
「君に救われた人が多いのさ。リムバ演習でキマイラに怖くて立ち向かえなかった者、赤い翼に親族が殺されたもの、目の前で魔術を見せつけられ心酔してしまったもの……いろいろさ。だから僕たちは夜な夜な集まって、君の魔術から何か学べないかと学んだり、訓練しているのさ。一部の有名貴族の子たちはすでに入学当初からスタートラインを切っていた。けど僕たちはそうじゃない。みんなが平民や新興貴族の家でね。そんな中、君みたいな平民から一年のトップに立つものが現れた。あこがれない方が無理というものだろ?」
隣に立つルルは大きく首を縦に振る。クロの目には嘘は見えなかった。
もしや図書館での視線もそれか……? 最近やたらとみられるなと思ったら。
「……いや、まあ俺と俺の周りに危害を加えないなら別に好きにしてくれていいけど……」
「やった、やったぞ! 公認だ!!」
「はあ!? いやまあ……そうなるのか?」
「おい、ノアがなんか推されてるぞ……」
「あまりに勢いが強くて困惑してるのかも、珍しい……」
あいつら、冷静に楽しみやがって……。
「そこでね、実はその……今度僕たちに魔術を教えてくれたりなんかしないかな……? も、もちろん報酬も出すさ! 一回でいいんだ!」
それにクラリスが待ったをかける。
「はあ!? 何ノアに学ぼうとしてるのよ、そういうのは自分で勝手にやりなさいよ!」
「わかってる! けど、やっぱりあれだけすごい魔術を見せられたら、僕たちも授業だけじゃ駄目だと思って……けど、うちは先述の通り平民だったり、魔術家系じゃない貴族が多くて、ほかに伝手がなくて……」
「ふうん……。まあ、教えるのも悪くはないか」
「ほ、本当かい!?」
「いいんですか!?」
「ああ」
教えることが自分のためにもなるらしいしな。
それに、俺にはシェーラが居たが、こいつらにはそういう人がいないみたいだ。多少は還元しても罰は当たらねえだろう。




