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図書館

 レグラス魔術学院の図書館。

 創立以来、数多くの魔術関連や、錬金術、天文学、はては料理本に至るまで、ここにはこの国の多種多様な書物が所蔵されている。


 地面には赤い絨毯が敷かれ、湿度を抑える魔術の施されたダークブラウンの本棚が等間隔に並ぶ。壁一面にも本は所蔵され、見上げると三階建てほどの高さの位置まで本で埋め尽くされている。


 シェーラの家にも沢山の本があったが、ここはくらべものにならないな。


 地下には禁書庫があるらしく、呪いの掛けられた本や禁術が記された本、異端の本など、簡単に見ることができないものが多く収められているのだとか。


 とはいえ、今回の目的はそれではなく、俺は二階の民俗エリアにある一冊の本を手に取り、ぱらぱらとめくる。


 そして、魔女と書かれた一文を見つけ、俺は手を止める。


『魔女とは主に女性の魔術師を指す。一方で、古来より錬金術や薬学に精通した女性に対しても使われた呼称でもあり、現在では使われることは少ない』


 そんなことわかってんだけどなあ。

 俺は短くため息をつく。


 あの"黒き霧"との戦いの後、俺はクラリスから、隻眼の魔女が言っていた言葉を聞いた。


『私たち魔女はね、この世界を滅ぼす競争をしているの。宗教、戦争、犯罪、災厄、教育……手段は様々』


 そして、やつは、自分のことを「災厄の魔女」と呼んだという。

 やつは魔神を復活させ、文字通り災厄でこの世を包もうとした。


『悠久を生きる魔術師。円卓の誰かが世界を滅ぼし、そうしてみんなで眠りにつく』


「災厄、円卓、眠りにつく……」


 この世界を滅ぼす競争をしているというのが本当に文字通りの意味なのであれば、魔女は間違いなく俺たちの敵だ。


 だが、あの魔女狩りのアレスが言っていたように、俺の魔力が魔女に良く似ているというのなら、シェーラが無関係とも思えない。一体何が起きようとしているのか。


 シェーラが居なくなったのも円卓とやらの指示なのか? それとも魔女狩りの脅威か? どちらも関係ないということも十分にあり得る。


 とにかく今は情報が少ない。

 騎士団が魔女狩りなんていう組織を作ったんだ、少なくとも隻眼の魔女クリスとの関連がある円卓の魔女たちは、本当にこの国の脅威なのだろう。


 今俺がここであれこれ考えてもどうしようもない問題か。

 そのうちシェーラから手紙が来るかもしれないし、またローマンの野郎から何か話が聞けるかもしれない。とりあえず、今は忘れよう。


 俺は手に持っていた本を棚にしまう。

 

「魔女……ね」

「調べ物か? 新入生!!」


 言われて振り返ると、そこには――ドマが立っていた。


「……ドマ先輩」

「がっはっは! 久しいな、ノア・アクライト!」


 ドマ聞き馴染みのある高笑いをすると、ドン! と俺の背中を叩く。


「あ、あんま大きい声出さない方がいいっすよ、ここで」

「おっと、そうだったな」


 そう言って、ドマは少し声のトーンを落とす。


「どうだった、休暇は」

「まあ、いろいろと……」


 言えねえよ、さすがに……。

 とその時、俺は一人の冒険者を思い出す。ライラ・シーリンス。

 奴も確か、ドマと同じ魔術である「ノックアップ・インパクト」を使っていた。


 あれはもしかして……。

 そういえば、師匠の伝手で北に用があるとか言ってた気がするが……。


「ドマ先輩の師匠ってどんな人っすか?」

「なんだ急に? まあそうだな、俺と戦闘スタイルは似ているが、師匠は斧を使う。女性だが、強い人だ」

「あ~……」


 おいおい、完全にライラじゃねえか!

 凄いニアミスだな……まあ確かに、あの人からこの弟子が生まれてもおかしくない。ということは、やっぱりドマ先輩もライラに目を掛けられるほどの実力者なんだろう。


 すると、ドマは不敵な笑みを浮かべる。


「ほほう、さては俺の北での特訓が気になるのか?」

「まあ」

「だが、教えるわけにはいかない!!」

「……」


 相変わらず暑苦しいな。


「俺は休み前よりも数段進化した。今の俺の実力で、お前にチャレンジタイムをしかけたいところだが、そうなれば俺たちは死ぬまで戦いを続けてしまうだろう。だからこそ、正々堂々と、しっかりとした舞台でお前と戦いたい」


 ドマは真剣なまなざしで俺を見る。


「ま、俺もドマ先輩とはどこかで戦いたいと思ってますよ」

「そうこなくては!!! 近いうち、俺たち上級生とお前が戦う日も来るだろう。歓迎祭上位者は、より実践的な舞台が用意される。俺たちの時のようにな。それまで鍛錬を怠らないことだ。俺は今までお前が戦ってきた魔術師とは一味違うぞ!!」

「望むところっすよ」

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