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ウィッチハント

「いきなり突っかかってきて間違ってたで済むと思ってるわけ!?」


 クラリスが腰に手を当て、団長と呼ばれている男に詰め寄る。


「いや……本当……すまなかった!」


 男は頭を深々とさげる。


「謝る必要ないですよ団長! こっちは正式な任務なんですから!」

「ちょっとあんた何よ、危うくノアが死ぬところだったのよ!?」

「団長にやられるなら本望でしょうが!」


 ハンマーを持った女とクラリスは、お互い顔を近づけていがみ合う。

 しばらくあーだこーだと言い合いした後、クラリスはバッとこちらを見る。


「というか、ノアもなんか言ったら!?」

「別に俺は気にしてねえよ。ケガもないし。俺以外だったらやばかったかもしれないけどな」

「おいおい、言ってくれるじゃねえか! 俺でも平気…………いやまあ、多少は怪我しそうではあるが……」


 アーサーは自信なさげに苦笑いを浮かべ、「まあ、とにかく平気そうでなによりだぜ!」と俺の肩を叩く。


「ノア君、本当に大丈夫なの?」


 ニーナは不安そうに俺の身体を見る。


「大丈夫だって、ほら」


 俺は軽く腕を回して見せ、ぴょんと軽くその場で飛んでみせる。

 すると、ニーナの召喚したフェアリーが俺の体の周りをひゅんひゅんと飛び回り、いたるところを確認する。そして、一通り確認した後ニーナの元へと戻る。


「……大丈夫そうだね、フェアリーちゃんも平気だって言ってる」

「わかるのか?」

「何となくね。召喚術って一方的に見えるけど、ちゃんと召喚した精霊なんかの気持ちも伝わってくるから」

 

 なるほど……やはり奥が深いな召喚術。

 俺も一つくらい習得するべきか……。


「へえ凄いな。――まあ、御覧の通り俺は特に何ともないし、この人からももう敵意は感じないから、別に開放していいんじゃねえか?」

「ノア君が言うなら、それでいいよ」


 そんなことよりも……。

 こいつの力、ただのそこら辺の魔術師ってわけじゃなさそうだ。

 

 

 明らかに……強い。いったい何者だ? 実力はSS級冒険者レベルか。


「そう言ってくれると助かる。本当申し訳ない! ニーナ様もお気遣いありがとうございます」

「い、いいえいいえ!」

「……まあ、僕の攻撃をあそこまで見事に受けきられると、それはそれで信じがたいんだけどね」


 そう言って、男はじっと俺を見つめる。


「あんたも、あれ全然本気じゃなかったっすよね? 底が見えないな」

「当然よ! 団長があんな緊急のナマクラじゃなくて、正規の剣をあんたなんか最初の一撃で――」


 と女がそこまで言いかけたところで、男は慌てて口を押さえてヘッドロックの形で体ごと抑え込む。


「わ、わるいな、この子も本当は悪い奴じゃないんだ」


 俺は肩をすくめる。

 男は女を開放すると、改めて自己紹介を始める。


「僕はアレス・ウォルバック。この子はカレンで、背の高いのがウェン。僕たちは騎士だ」

「騎士……道理で強いわけっすね」

「まあ多少はね。一応君の名を聞いても?」

「俺はノア・アクランド」


 すると、アレスはハッと表情を変える。


「ノア……! まさか、レグラスの今年の新人戦優勝者の?」

「まあ……知ってるんすか?」

「当然さ、なんて言ったってレグラスは名門だからね。そうか、君が……どおりで強いわけだ。今年も豊作だな。ということは後ろの君たちもかなりの実力者ってわけか」

「そりゃ当然っすよ!」

「あんたねえ……自信だけは満々なんだから……」


 クラリスはアーサーに呆れてため息を漏らす。


「騎士団も、新しい戦力をスカウトするために、優秀な生徒は毎年チェックしてるからね。新人戦も重要な大会だよ」


 するとクラリスが言う。


「騎士がこんなところで何の用かしら。こんなに少数で行動してるなんて珍しいわね」

「わけあって、最近新しい部隊が編制されてね。僕はそこのリーダーってわけさ」

「それが、魔女と関係が?」

「まあ、そういうことさ。君たちも都市伝説としてその噂くらいは聞いたことがあるだろ?」

「そうですね、その伝説から、悪事を働く女性魔術師を"魔女"と呼んだりするようになったと聞いてます……」


 と、ニーナは複雑そうな表情で答える。

 セレナの件が、まだ忘れられないのだろう。彼女も魔女と呼ばれていたっけ。


「その通り。だが、僕たちが追っているのはその原点……本物の魔女達だ。僕たちは魔女狩り部隊(ウィッチハント)


 魔女狩り……まさか、シェーラが身を隠したのと関係が?


「それで魔女か……か」

「その通り。君の持つ魔力が魔女の物と似ていて、つい攻撃してしまったんだ。申し訳なかったね」

「俺の魔力が魔女と似ている?」

「あぁ。魔女の魔力は大きくそして落ち着いている。君のもそう感じたのさ」

「……魔力が見られるのか?」

「ま、一応ね。僕の特技みたいなものさ」


 そう言ってアレスは自分の目を指さす。


「だけど、誤解は解けたよ。僕の早とちりだったみたいだ、申し訳ない。この件については騎士団を通して正式に公爵家と学院に報告させてもらうよ」

「そこまではいいっすよ。なあニーナ」

「うん、私は別に被害を受けたわけじゃないですし。任務に忠実なだけですから、気にしないでください」

「そう言っていただけると助かるよ」


 すると、ウェンが口をはさむ。


「団長。少ししゃべりすぎじゃねえか?」

「間違えたんだ、これくらいはね。ただ、すまないがこれ以上は言えないことも多くてね。僕たちはここらへんで失礼するよ。君たちとはまたどこかで会いそうだ」

「かもしれないっすね」

「それじゃあ――」

 

 と、そこでアレスは一瞬立ち止まり、俺の方を振り返る。


「ノア君。……君、魔術は誰に教わった?」

「……まあ、師匠っすね」

「ふうん……そうか。いい師匠を持ったね。大事にしな」


 そう言い残し、アレスたちはその場を去っていった。


 アレス・ウォルバック……か。

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