団長
彼らの戦いは巧みな連携を以て、あっという間に終わりを告げた。
少女のハンマーによる攻撃力と、細い男の魔術を使った補助。そして、赤髪の男の圧倒的な剣技。
団長と呼ばれたこの男の力は、他の二人より頭一つ、いやそれ以上抜きんでていた。
触手のモンスターはあっという間にブツ切りに刻まれ、その生命活動を停止した。
「う、うおおおおお!!」
「ありがとう!!」
「すげえ、すげえよあんたら!!」
住人達から歓声が沸き上がる。
「あ、あれ終わってる……?」
「ノア君!」
追いついたニーナたちは、不思議そうに俺を見る。
まさか自分たちが追いつくまでに終わっているとは思いもしなかったのだろう。
「おいおい、ノア! まさかまたやっちまったのか!?」
「いや俺じゃねえよ、あそこの連中がやったんだよ」
俺は三人組の方を指さす。
「ん? 三人組……?」
「誰かしら?」
「冒険者ではなさそうね。あのモンスターを倒せるくらいの冒険者なら、私が知らないわけないし」
三人は不思議そうな顔で観察する。
「なんか、騎士団っぽくないか? 似たような揃いの白い装束着てるし」
確かに、三人とも白い装束を身にまとっていた。
「けど、騎士団にモンスターを狩るような団があったなんて初耳だけど? 基本的にモンスターは冒険者の領分だし」
「そうだけどよ、たまたま居合わせたから狩ってくれたんじゃないか?」
「いくら強いからって、普段モンスターと戦いなれていない人たちがいきなり戦えるとは思えないわ」
「そうかあ? うーん……」
アーサーは顔をしかめ、うなり声をあげる。
「たまたまというより、俺にはどちらかというと待ち構えていたようにも見えたけどな」
俺の言葉に、三人とも怪訝な顔をする。
「モンスターが出ることを知ってて現れたって?」
「さあ。ただ、モンスターが出てもおかしくないという覚悟を持ってたって感じかな。いきなり遭遇して戸惑っていた様子もなかった」
「謎が深まるね……」
「ま、いずれにせよなんともなくてよかったぜ! これで俺たちの中の誰かが怪我でもしたら、せっかくの休みがパーになるところだったからな!」
「それもそうね。煩わしい後処理は彼らに任せて、私たちは観光の続きしましょ。ね、ノア」
「あぁ……――ッ!?」
瞬間。
俺は異常な殺気を感じて、三人を突き飛ばす。
「「「っ!?」」」
と同時に、雷刀を発動し、首へと振り下ろされた剣を受け止める。
それは、団長と呼ばれた男だった。
「はあ!?」
「なんだこいつ!?」
「ノア君!!」
「ほう……」
俺はそのまま剣を弾き飛ばす。
団長と呼ばれた男は空中でくるっと回転すると、右手に魔力を集める。
「何する気!?」
「!」
これはまずい!! こいつ、本気か!?
俺はスパークを発動し、男めがけて射出する。
しかし、男はそれを左手の剣で切り壊す。
「!」
そして、男はその魔力を溜めた右手で剣に触れる。
瞬間、その剣は一気に魔力を帯び、まるで嵐のような風を纏う。
おいおい……これを一振りしただけで、この辺り吹き飛ぶぞ……!
「――”フラッシュ”」
「速い――!?」
俺は一瞬にして男の背後に飛ぶと、狙いを剣に定める。そして。
「悪いな……”黒雷”!」
放たれる黒の雷。
激しい雷鳴とともに放たれたそれは、男の剣を飲み込み天へと突き抜けていく。
「ぐっ……剣が!」
剣は刃の中ほどから折れ、完全に使い物にならなくなっていた。
「なんて威力……! お前やはり……魔女か?」
「はぁ? どういう意味だよ」
俺は男を蹴り飛ばし、一定の距離を取る。
男はジロリと俺をにらみつける。
すると、その横からハンマーの女が「だ、団長!」と声を荒げて現れ、耳打ちする。
「邪魔をしないでく…………え? 一般人? これで? ……隣にいるのが公爵令嬢……?」
そうして男は俺たちを二度見した後、滝のように汗をかき、そして。
「あっはっは、悪い悪い! 間違ったわ!」




