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異形

「うわあああああ、モンスターだああああ」

「押すな! 逃げろ逃げろ!!!」


 海へと続く通りは、まさに阿鼻叫喚だった。

 さっきまでのお祭り騒ぎのようなにぎやかさは消え去り、悲鳴と怒号が飛び交う。

 その人の流れに逆らうように、俺は屋根伝いに海岸へと走る。


 遠くに見えていた海岸はぐんぐんと近づいてくる。


 正面に見える建物の屋根の隙間から、複数の触手がうごめいているのが目に入る。

 さっきよりもはっきりと見える。


 多くの触手がぶんぶんとしなり、風を切り裂くようなヒュン! という鋭い音が鳴り響く。


 それはまるで鞭を振るようで、地面に叩きつけられたところから巨大な砂ぼこりが舞い上がっている。そのたびに悲鳴があがる。


 相当巨大なモンスター……ランク的にはB~Aというところか。

 こんな街中に突如現れるなんて……海からの侵入は気づくのに遅れるということか。あれだけでかくても海の中にすっぽり隠れてしまう。


 とにかく今は急ぐしかない。


 俺はさらに加速して最後の屋根を飛び越えると、風を一身に受けながら海岸の砂浜へと飛び出す。


「ママあああ!!」

「子供……!」


 目の前には、親とはぐれ逃げ遅れて少女が泣きながら一人立ち尽くしていた。


 そしてその少女の奥――背景の青空を紫色に染め上げる巨大なモンスター。

 何本もの触手がうごめき、丸い頭部と思われるところには六つの目が黄色く輝いている。


「タコの化け物ってか。初めてだな、このタイプのモンスターは。だが……」


 まずは子供優先か……!


 この子を背に乗せて戦うには俺の魔術は広範囲すぎる。

 それに、これだけ巨大な敵なら風圧や威力で吹き飛んだ何かが当たるだけで大けがをしてしまう。


 一旦この子を連れて離れてからもう一回戻ってくるしかない。

 俺はさっと少女を持ち上げる。


「大丈夫か、一旦ここを離れよう」

「うう……」


 涙でぬれた少女を脇に抱え、俺はぐっと足に力を入れる。


「一瞬ピリッとするけど我慢してくれよ」


 少女はわけもわからず、とりあえず何かが起こると覚悟してぎゅっと目をつむる。

 そして、俺は一瞬のうちにフラッシュでその場を離れると、少女を安全な場所に下ろす。


「わ!?」

「よし、ここなら――」

「うわああああああああああ」

「!」


 その瞬間、その巨大なモンスターは俺たちの方ではなく、反転してまだ人が残っていた建物の方へとその巨大な触手を振り上げる。


「せわしねえな。お前の相手は俺だ!」


 と、俺が再度のフラッシュを発動しようとしたその瞬間、激しい打撃音が鳴り響く。その直後、目の前のその巨大なモンスターは何かにでも躓いたかのようにぐらっとよろめく。


 なんだ……アーサーたちか……? 

 しかし、アーサーたちがあの人込みをこんなに早く抜けてこられるわけがない。


 だとしたら……。


 よく見ると、そのモンスターの足元には三人の人影があった。

 彼らは白い装束に身を包み、武器を構えている。


「団長~、休暇って聞いてたんですけど~」


 巨大なハンマーを肩に担ぎあげ、その少女はけだるそうな顔で後ろを振り返る。


 あのハンマーでモンスターを弾き飛ばしたのか。かすかに魔術の反応を感じるが……。


「あのさあ、団長が休暇って言って本当に休めたことあった? あるわけないよね、この人トラブルを呼び込むんだから」

「あんたに聞いてないんですけど」


 あっそ、と紫の髪をした背の高い男は肩をすくめる。

 そして、腕を組んでいた赤髪の男が口を開く。


「いいじゃないか、いい運動になっただろカレン」


 団長と呼ばれる男はさわやかな笑みを浮かべる。


「まあ……そうかも」

「か~団長に惚れてるからってほだされすぎだろこの女」

「うっさい、河童男!」


 カレンの蹴りが細い男の尻をとらえる。


「さ、さっさとこの異形を片付けよう」

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