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連携

「ボォォォァアアアアアア!!!」


 けたたましい咆哮を上げ、"黒き霧"は一目散に俺へと突進してくる。

 その身体は真っ黒な鎧で完全に武装されている。


 スパーク……!


 放たれる紫電。

 しかし、それは"黒き霧"の鼻先に当たると、カン! と弾かれ霧散する。


「!」


 俺の主力魔術の「スパーク」が簡単に弾かれるとは……!

 威力はそこまでないとはいえ、これである程度の魔物は屠ってきた。


 さすがは厄災級の魔物、”白き竜”と対をなすドラゴンというわけか。

 

 だったら……。


「……”雷刀”」


 俺は右手に雷の刀を生成する。

 高電圧の流れた一刀両断の刃が、青白く光る。

 

 狙うは関節! 可動域を妨げないように外殻は関節にはついてねえはず!


 そこを狙い、じわじわと削り取ってやる。


「グラアアア!!」


 グン! と、首を下から上へと振り上げ、"黒き霧"はその頭を俺へと叩きつけてくる。


 俺はそれを避けると、左前足の関節めがけて雷刀を振り下ろす。


「させないわよ」


 瞬間、金髪の魔女クリスは俺の背後から後頭部めがけて魔術を発動する。

 伸びる木の枝のようなものが不規則な軌道を描き俺の背を襲う。


「ちっ」


 それを間一髪で避け、魔女には構わず攻撃を続行する。


 しかし、その一瞬の隙を利用し、”黒き霧”は俺の刃が触れる直前――その外殻を切り離す。


「!?」


 外側に向けて勢いよく解放された外殻は、黒い霧となって一気に俺の体を襲う。


 まずい、これを浴びると一気に魔力を持っていかれる……!!


「”サンダーボルト”!!」


 即座に放った範囲攻撃魔術は、切り離された霧を一瞬にして消滅させる。


 そのすきに、俺は”フラッシュ”で一定の距離を保つ。


「ふぅ……」


 厄介だな……。


 遠距離攻撃は魔力を帯び強化された外殻で弾かれ、近距離では外殻の切り離しによる黒い霧での即死攻撃。


 上手く隙を見て迫っても、魔女からの援護射撃付き……か。


 久しぶりの強敵に、俺は思わず笑みをこぼす。

 最近は全力を出すなんてことがなかったからな。


「怖い怖い。さすがにあの程度の攻撃では死んでくれないのね」


 魔女は”黒き霧”の皮膚を撫でながら言う。


「当然。突破口はすぐに見つけてやるよ」


 とはいったものの、どうしたものか。

 分かったこととしては、魔女が森の外周に分身を出しているせいか俺を確実に殺すような魔術を使えないということ。

 そして、恐らく強化外殻となったことでさっきまでのような仮想外郭ほどの広範囲への霧化は無理になったことだ。


 仮に魔女が万全ならあんな避けられるような半端な攻撃はしないだろうし、”黒木霧”も、何もあの一部ではなく全体を霧化してしまえばあの時点で俺は詰んでいた。


 一応、突破口はある……か。

 

 こうして、俺は黒い霧と魔女の妨害を二人相手に戦いを始めた。


 近づきすぎると魔力吸収の霧を放たれてしまうため、一定の距離をとった戦い。

 攻撃の威力が高く、掠ることすら許されない。


 しかも、魔女からの妨害付き。いくらフラッシュがあるとはいえ、避け続けるのにも限界がある。


 今のところお互いに致命傷はないが、それだけだ。

 数日なら休憩なしで戦い続けられるが、それはこいつも同じ。むしろ魔力リソースを貯めている分俺より長く活動出来るだろう。


 そうなれば、俺が動けなくなった後処理し、成体になってしまう。

 つまり、逃げ続けるだけじゃだめ……どっかで確実に仕留めなくてはならな――


「ブオォォォォァアアア!」

「ッ! スパーク!!」


 考えている暇もねえ!


 咄嗟に放ったスパーク。

 それはいつも通り奴の左肩部分に激突すると、大したダメージもなく霧散する。


「やっぱり効かな――」


 いや、待て……あれは、亀裂……!


 何度かスパークを受け止めていた”黒き霧”の左肩部分が、ほんの僅かだけ亀裂が走っていた。


 そうか、効いてない訳じゃない。こいつ自身、俺の魔術を受け止めていることには変わりないんだ。

 

 外殻が黒い霧が集合し固まった姿なら、同じところに受け続ければそれが剝がれるのも道理か。


 なら、やることは一つだ。

 もっと一点集中して魔術をぶち込む。


「”雷槍”……!」


 生成した雷の槍。


「ガアアアア!!!」


 ”黒き霧”が口を開いた瞬間、放たれるブレス。

 魔力をただ固めただけの攻撃。本来なら魔力だけでここまで威力を出せるわけがないのだが、それを可能にするのはやはりため続けた魔力リソース。


 だが、それは隙でもある。


 そのブレスをすんでのところで躱すと、俺は黒い霧の右肩めがけて槍を射出する。


 それは見事に肩に激突し、いつも通り霧散する。

 だが、既に入っていたヒビが、僅かに広がる。


 ここをえぐり続けて、むき出しになった生身に一気に電撃を流し込む!! 俺の最大出力だ!!


 ”黒き霧”の動きは素早い。

 跳躍、突進、方向転換。


 だったら、地道に穿ち続ける……!


「ふうん、何か光明が見えたみたいだけど……させないわよ!」


 俺が二投目を構えた瞬間、目の前に木の壁が生成される。


「ちっ……!」


 俺はそれを槍を構えている反対の手で”スパーク”を発動し、目の前の壁を破壊する。


 開けた視界の先には、既に黒い霧の姿がない。


「どこへ――ッ!?」

「ガアアアアア!!」


 いつの間にか上空へと跳躍していた”黒き霧”が、俺の真上から飛び込んでくる。


「チッ!!」


 まずい防御を――いや、間に合わない、回避……!!


 瞬間的に発動するフラッシュ。

 しかし、ギリギリのところで黒い霧の射程が届き、俺の左頬ぎりぎりを爪が掠る


「ぐっ……!」


 仮面に僅かに傷がつく。

 この連携、厄介過ぎる……!


「あらあら、仮面に守られたみたいね」

「……付けてて良かったぜ」

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