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サンクチュアリ

 黒い稲妻は黒い霧ごと吹き飛ばす。

 霧で覆われた空に、ぽっかりと穴が空く。


 帯電した脚で勢いよく飛び出すと、俺は戦場へと降り立つ。


「遅れた。生きてるか?」

「ヴァン様!!」


 地面に倒れ縛られているクラリスは、目を輝かせてこちらを見上げる。

 顔面は蒼白、どうやら危機的状況だったらしい。


「私もいるわよ」

「アリスさん!」


 アリスは軽くため息をつく。


「ちょっとヴァン、あの魔術ぴりってしたわ。痛くないって言ったのに……」


 アリスは少し悲しそうな顔をする。


「しょうがないだろ、雷なんだから。それより、二人を頼む」


 アリスはうなずくと、クラリスとファルバートのそばに駆け寄る。


「ご、ごめんなさい、私たち拘束されてて……しかもこれ、結界らしいのでそう簡単には……」

「任せて」


 そういうと、アリスは二人の枷にそっと手をかざす。


「”理を曲げる解。錠を壊す槌。幻想は夢と消えあるべき姿へと戻らん。精霊よ、解きたまえ"――解錠」


 すると、ぱーっと白い光が灯り、一瞬にして二人の枷が外れる。


「え!?」

「まじか……!?」

「聖属性の出番よ、こういう時はね」

「安心したとこ悪いが、状況を聞かせてくれ」

「は、はい! えっと――」


 俺はクラリスから手短に事の顛末を聞く。

 黒い霧、魔神、アーティファクト……おおよそ俺がここまで得た情報と符号する事実が多い。


「魔神……まったく、ローマンの予想があたるとは」

「え!?」

「冒険者によってアーティファクトが献上されている可能性の話をしたら、あいつここ最近のアーティファクトの動向を全部把握してやがった。そこから魔神の可能性もあると忠告されたんだが……まさかな」


 魔神とはまさに神話上の存在。

 実在するとは……。さすがの俺も、魔神が復活する前にけりをつけないとまずいか。


「で……こいつが本体か。俺にダミーなんてあてがう奴は」


 俺は金髪の魔女を見る。


「ちゃんと間に合ったのね。良くかいくぐったわね、私の飼い犬たちを」

「ローマンとかいう胡散臭いのがいてね。人を使った人海戦術ならお手の物さ。今頃この森の周囲で大戦争勃発中だろうな」

「ヴェールの森に入れたっていうわけ? ふふ、今の状況がわかっているのかしら?」


 魔女は不敵に笑う。


「”黒い霧”の完全復活と魔神の顕現だろ? くだらんな」

「みんな食べちゃうかも、私の霧ちゃんが」

「その前に俺が黒い霧を倒す。今度は封印じゃなく、完全にな」


 俺は警戒を続けながら周囲を観察する。

 伏兵はいない。魔女の後ろに漂う黒い霧は、周囲を広く覆っている。


「クラリス、ファルバート。逃がしたいところだが、今この森は中も外も危険だ。アリス、頼めるか?」

「あぁ!? てめえに指図される謂れはねえ、俺も戦うぜ」

「わ、私も! ヴァン様の手伝いさせてください……!」

「ダメだ、相手は魔力を吸収する。お前たちがしくじればそれだけ俺たちが後手に回る。今は見ておけ」

「……」


 二人は悔しそうな顔をしながらも、状況をしっかりと理解できているようだった。


 それ以上反論はなかった。


 アリスは二人に近くに来るよう指示する。


「いくよ、二人とも」


 アリスは手前にかざすと、魔術を発動する。


 地面に三重の魔法陣が出現し、一気に魔力反応がほとばしる。


「こ、これは……!?」


 アリスを中心に、半径三メートルほどのドーム状の空間が生成される。

 それは半透明の結界で区切られ、その結界の下から上に何かが流れ続けている。

 

「”サンクチュアリ”。土地の聖霊の力を借りた不可侵領域。ここなら、あの黒い霧だって侵入できないわ。代わりに、私も動けない」

「それじゃあ何かあったらおめえもお陀仏じゃねえか」

「大丈夫よ。そうでしょ? クラリス」


 言われて、クラリスはハッとする。

 そして、俺の方を見る。


「大丈夫……絶対大丈夫! だって、最強なヴァン様が居るんだから!」


 クラリスはにやりと必死に笑みを浮かべ、俺を見つめる。


「……やれやれ、期待に応えるとするか。アリス、何分持つ?」

「せいぜい10分くらいだわ。それが過ぎれば、私の結界は闇に飲まれて終わり」

「十分」


 十分以内に、黒い霧をぶっ飛ばす。

 いつも通りやるだけだ。油断せず、確実に対処する。


「ヴァン様!」


 結界の中から、クラリスが叫ぶ。


「頑張って下さい……!」


 その声に、俺は後ろを振り返らず手を上げる。


「さて、最終決戦といこうぜ。黒い霧、そして……魔女」

「神にささげてあげる、全員纏めてね」

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