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奇襲

 コンコンと俺は扉をノックする。

 扉は古びた木で出来ており、丁度目の高さのあたりに「207」と数字が書かれたプレートが貼り付けられている。


「……反応がないですね」


 クラリスは怪訝な顔で俺を見る。


「いや、呼吸の音がする。中にはいるようだ」

「よ、よくわかりますね」

「魔物を追う冒険者ならわかるだろ?」

「そんな! 私には無理です、さすがヴァン様!」


 クラリスはきらっと目を輝かせ、両手を結ぶ。

 が、すぐさまハッと何かを思い出したかのように我に帰ると、ブンブンと頭を振り直ぐに表情を戻す。


 俺は改めて扉の方に向き直る。

 仕方ない、呼びかけてみるか。


 俺はもう一度扉をノックする。


「おい、聞きたいことがある。危害を加える気はない。少し顔を見せてくれないか」


 しかし、少し待てど反応はない。

 今度はクラリスたちもわかるように中から物音がしたが、話す気はないようだ。


「仕方ない出直す——」

「ねえ、ヴァン。それ」

「ん?」


 アリスが扉を指差しながらいう。


「鍵かかってなかったりしない?」

「そんなわけ……」


 俺は扉のノブに手をかけ、グッと押してみる。

 すると、特に何にも引っかからず、扉はギギギとくたびれた音を鳴らしながら開く。


「開いてる」


 そうか、そこまでか。

 扉を閉めるという行動さえ満足に出来ないほど憔悴しているというわけか。


 ゆっくりと扉が開き、中の部屋が見えてくる。


 そこには、まるで争いがあったかのような惨状が待っていた。


「これは……」


 棚や箪笥が倒れ、地面には衣類や食器などいろいろなものが散乱している。

 そして乱れたベッドの上に、髪がボサボサに汚れた一人の女性が、背中を丸くしてじーっとこちらを見つめている。


「彼女が……?」


 クラリスの問いに俺は恐らくと頷く。


「あんたが、エミリー?」


 酒場の店主が冒険者たちの会話を盗み聞きした彼女の名前だ。

 エミリーは虚な目を泳がせ、周囲を見回す。


 そして、両手で自分の肩を掴み、ガタガタと震え出す。


「ううううううう…………!!」

「落ち着け、俺たちはあんたをどうこうしに来たわけじゃない、話を聞きたいだけだ」

「私は悪くない!! 私は悪くない!!」


 エミリーは目を見開き、怯えるようにして叫ぶ。

 だめだ、完全に錯乱している。


「一体ヴェールの森で何があったんでしょうか……」

「これじゃあ話が聞けませんね。私が浄化してみましょうか」

「そうだな。精神汚染されてる可能性もある。頼めるか?」

「はい。では私が——」


 瞬間、俺は”フラッシュ”で高速化し、クラリスの頭目掛けて飛んできた氷の槍をすんでのところでキャッチする。


「なに——」


 クラリスは突然目の前に現れた俺に驚きつつも、その手に握られたものを見て、ハッと息を呑む。


 瞬時にアリスは反転し、扉の方を向いて警戒体制を敷く。

 それに続いて、クラリスも慌てて腰の剣を抜く。


「俺の攻撃を受け止めるか。ただの雇われといういう訳じゃあ無いようだな」


 扉の方から、金髪の男が入ってくる。それに3人の男が続く。


「出会い頭に随分なことだ」

「殺す気だったからな。まさか止められるとは」


 男は肩をすくめる。


 ——こいつ、なかなか出来る。


 この所作からして、対人に特化したタイプの魔術師だろう。

 どちらだ? この女——エミリーの仲間か? あるいは依頼主か、それとも全く別の俺たちと同じ狙いを持つ第三者……。


「俺たちに用か? それとも彼女か?」

「両方さ。エミリーも渡してもらう。お前たちも消えてもらう」

「何者だ?」

「ファルバート一家、って言えばわかるか?」


 ファルバート一家……確かこの辺りのスラム、その奥の暗黒街を仕切るマフィア集団だったか。ここ数日の情報収集で何度か耳にした名前だ。


 そんな連中がなぜこの女を……? 黒い霧に何か繋がりがあるのか?


「ファルバート一家がこの女に何のようだ」

「教える義理はない。魔女の一味が……お前たちは死ぬんだ、聞く意味はないだろ」

「魔女の一味? 何のことだ」

「しらばっくれるな。まあいい、どうせ殺すんだ、お前たちの口から聞く必要もない」

「こいつ……黙って聴いていれば……!」


 興奮するクラリスに、俺はスッと手を前にだし静止する。


「まあいい。俺が相手してやる」

「や、やるんですか!?」

「この手合いは話は通じない。徹底的に潰して聞き出す。それが一番早い」

「よくお分かりで。さあ、始め——!?」


 瞬間、俺は男の準備などさらさら待つ気もなく、”フラッシュ”で加速した蹴りで男を窓ガラスの方へと思い切り蹴り飛ばす。


 ちっ、防がれたか。


「ぐっ! ……貴様も相当血の気が多いな、小僧……!」


 パリーン!!! とけたたましい音を響かせ、ガラスが地面へと降り注ぐ。

 それに続いて、金髪の男は宿の外へと吹き飛んで行く。


 俺もそれに続き、割れた窓から下へと飛び降りる。


 さて、こいつが何者であれ、答えには一歩近づけそうだ。


「話を聞かせてもらうぞ、ファルバート一家」

「——いいね、血祭りにあげてやるよ……!」

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