わたくし達のこれからの道を選択しなければなりませんわ
「レイナ様、これからどうしますか?」
「どうなさるって……それは勿論前の場所に帰りましょう。そうしなければ今の私達では生活出来ませんわ」
「他の場所に移動しなくても良いのですか? 旅をしたいと言っていたじゃないですか」
「マリアはそれで良いのですか?」
「今更何を言うのですか。それがレイナ様のしたいことでしょう」
「そうですわね……ですが能力も開花していないわたくしが様々な所を移動して大丈夫でしょうか? 今の所安全なので大丈夫でしょうが、このまま移動すればマリアが危険かもしれませんもの」
元々は、王太子妃に選ばれずに、公爵から追い出されて、チートが開花して旅をする予定が、チートが一向に開花せずに、王太子妃に選ばれて、自ら断ったことで自動的に公爵家に戻れなくなった結果がこの様であります。
それに当初はわたくし1人で旅をする予定が、マリアと一緒に旅をすることになったため、事情が大きく変わってしまったのですわ。
だからこそ、マリアを大きなことに巻き込むのは気が引けてしまいますの。
「確かに旅は危険は付き物です。ただ、やはり旅を出来るのは若いうちだけですよ」
「どうして若いうちにしか旅が出来ないと思いますの?」
「そりゃそうです。旅なんて体力勝負ですから、年を取ってからはかなり大変ですよ。今のうちから慣れないと厳しいと思います」
わたくしは、チートが開花致しますか、開花しなかった場合の数年間は、あの場所で働いてから旅を始めようと今のところは思っておりました。
そのため今すぐ旅を始めるということは何も考えておりませんでしたわね。
まあマリアの仰る通りに、若いうちにしか旅をしなければ大変なことにもないそうですわね。
しかし、やはりそれでも懸念点は払拭出来ませんわ。
「わたくしは全然旅をする基礎力が付いていると思えませんの。人並みに出来るまでは移動しない方が……」
「人並みに生活能力を付けようとすると、レイナ様なら最低でも5年程はかかるでしょうね」
「マリア、それはどういう意味ですの?」
「そうではないですか。はっきり言わせてもらいますが、レイナ様の今出来ることは幼児並みですからね」
「幼児ですって!? もう1人で着替えも買い物も出来るようになったと言いますのに?」
「そんなの幼児でも出来ますから。幼児を舐めないでください」
「ちゃんと仕事をしてお金だって稼ぎましたわ」
「それも幼児のお手伝い並みの仕事ですからね。あくまでもその動作をずっと続けているからこそのお給金ですから。特殊なことは何一つしておりません」
まさか今のわたくしが、幼児並みのことしか出来ないだなんて、誰か嘘だと仰ってくださいませ。
ここまで成長しましたのに、実は然程成長しておりませんでしたのね。
いえ、赤子から幼児からなったのですから、これはやはり喜ぶべきなのでしょうか?
もう全く分かりませんわ!!
「でも大丈夫です。私マリアが全力でレイナ様をサポート致します!! こう見えて私は武術の心得もありますし、どうしても気になるのであれば、公爵家の護衛を引き連れてきますよ」
「公爵家の護衛って……。今回はマリアが特別に付いて来てくださっただけで、他の方々は付いて来てくれるわけないでしょう」
「大丈夫です。私の元カレなら誘えば付いて来たがります。なんせ彼は付いて行きたいと言いながら、無理矢理私が引き留めましたから」
「何ですって?」
「あの人はアリス様の信者ですからね。ただ、レイナ様が要請しなければ絶対に付いてこないように言いつけましたからご安心ください。あ、あと私がレイナ様のところに来たことで別れたことは気にしないでくださいね。これは私達だけの問題ですので」
「いえ、そういう問題ではありませんわよね!?」
一気に衝撃的な情報量が多くなりまして、わたくしの頭が処理が出来ませんわ。
まさかマリアに付き合っていらっしゃる方がおりましたなんて、そんなこと知る由もありませんでしたわよ。
勿論そんなことは、小説には何1つ書かれておりませんからね。
まあそもそも侍女であるマリアのことを書いていなかったので当然と言えば当然なのですが。
ただわたくしの旅が原因で、お2人が別れることになったとは……気にしなくても良いと仰られても、そんなの無理に決まっております。
これ以上になく罪悪感がのしかかるのですが……。
しかしそれに致しましても、その彼氏の方もマリアと同じくアリスを大切に思ってくださったとは……。
アリス……フレディ様も含めてでございますが、多くの方に愛されていらっしゃるではありませんか!!
確かに自由も無く家族から愛されなかったことは、わたくしも同じですし同情致しますわ。
しかしですわよ、アリスは侍女のマリアからも護衛の……えっと……名前が何と仰るのか知りませんがマリアと別れてしまった方からも、そして婚約者であったフレディ様からも、愛されていらっしゃるではありませんの!!
わたくしは家族からもお手伝い様からも許嫁からも誰一人わたくしを愛してくださる方がいらっしゃらなかったのに、本当にアリスは贅沢ですわ。
これだけ愛されていらっしゃったのに、まるで何も無かったかのように、1人で平気な顔をして旅をしていらっしゃっただなんて、アリスを軽蔑しそうになりますわよ。
わたくしには無い物を多く持っていらっしゃるのに……本当にアリスが羨まし過ぎますわ!!
怒りと嫉妬は溢れ出てきますが、それにしても今はこれからのことを決めなければなりません。
マリアにも意見を確かめなければなりませんわ。
「マリアはわたくしが旅をすることを望んでいらっしゃることに違いありませんか?」
「レイナ様が望んでいらっしゃることが私の望みです。もしレイナ様が旅をしたくないのであれば、それに従います。ただレイナ様が旅をいずれしたいのであれば、すぐにした方が良いと進言しますがね」
「分かりました。あと、マリアのお付き合いをされていらっしゃった護衛様は、連れて行かなくても大丈夫なのですよね?」
「レイナ様が望まなければ連れて行く必要はありません。私も彼からは護衛術は多く学んでおりますし、それに何よりも彼にレイナ様を取られたくないのです、王太子殿下はまだしも」
「わたくしがマリアという存在がいらっしゃって、彼を取るとお思いでございますの?」
「確かにレイナ様が王太子殿下と婚約しておりましたのに、平凡な彼に振り向くことはありませんわね。お嬢様はいつか必ず嫁ぐと思っておりましたから、完璧な王太子殿下なら取られても致し方がないと思っておりましたが、彼如きがレイナ様を奪うと想像すると腹が立ちまして、そんなことを言ってしまいました」
「マリア、変な妄想をなさらないでくださいませ!!」
かなり鈍いことを自覚しているわたくしですが、間違いなくマリアは付き合っていらっしゃった方よりも、わたくしアリスこと麗奈の方が大事なのですわよね。
わたくしはマリアの彼氏様を取るつもりはないと言う意味で申し上げたのですがね……。
何だかマリアと付き合っていらっしゃった方が、不憫に思ってしまいますわよ。
しかし、そこまでわたくしを大事に思ってくださるのは本当に喜ばしいことですわね。
これ以上のマリアの恐ろしい妄想はご遠慮いただきたいですが。
「レイナ様、もし護衛がお呼びになるならご安心ください。公爵家に務める程なので実力は確かですし、私もそれは保証します」
「マリアがそこまで信頼していらっしゃる方であれば、疑うつもりは毛頭ありませんわ。ただ、マリアが護衛術も備えていらっしゃることも信頼致しますので、頼むつもりはありません。わたくしはマリアと2人で旅をしたいと思っておりますしね」
「レイナ様……ありがとうございます!!」
あらあら、わたくしの手をギュッと握って……強く握らていらっしゃるせいか少し痛いのですが、そこまで目をキラキラと輝やかせて天使のような微笑みを向けてこられたら、この決断は大正解だったようですわね。
素直なことを伝えましたが、マリアが暴走することはなさそうで安心致しました。
「あ、あと顔はホワイト様のような平凡な顔ですから、レイナ様が好きになることはないですからご安心くださいって……もう護衛を付けないと言いましたから、何の問題はありませんね」
「わたくしは別に顔で判断するわけではありませんわよ。フレディ様も別に顔で判断しているわけでは……いえそれは多少はありますわね」
「そりゃそうですよね。あんな美形を見たら、他の男になんて見向きもしないですよね」
何だかホワイト様も貶されているような気がしないのですが……それは今は気にしないことに致しましょう。
まあ、あの美しい方が一時とは言え婚約者でしたから、これから恋するのは難しそうですわね。
いえ、旅をするのに恋なんて必要ありませんわ……少し寂しい気もしますがね。
正々堂々と旅をしてみせますわ。
「マリア、これからすぐに旅を始めましょう。楽しみましょうね」
「はい勿論です、レイナ様」
何だかこれから不穏なことが起こるのではないかと、直感的に思いましたが、きっと気の所為ですわよね。
ただ旅を止めるという手段は無くなってしまったのですので、楽しみの方が大きいですわ。




