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白の王子  作者: 櫻塚森
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MIDNIGHT SUN:2

『ただいまー!』

声と共に黒くて長いものがスコタディーノーチェの顔面にへばりついた。

それは小さな黒い蛇だった。

「おかえり、ロロ。前にも言ったけど顔にダイブするのはビックリするから止めてくれないかな。」

ルキリオは、自分の首に巻き付いているルルが身を乗り出しているのに気付いた。

「ルル?」

スコタディーノーチェの肩から首に巻き付いた黒蛇とルルが向き合う。

暫しの沈黙!

『ルル!』

『ロロ!』

二匹は飛び出し空中で縺れ合うように絡み合いながら、宙に浮かんでいる。

「おや、知り合いかな?」

キャッキャッとはしゃぐ二匹。

『ボクの』『私の』『『番だよ!』』

二匹は

嬉しそうにハートを飛ばしていた。

「へぇー。ルルって君のことだったんだね。長い間、君の奥さんを一人占めしてたね、ごめんよ。」

手を差し伸べたスコタディーノーチェに飛び乗るルル。代わりにロロがルキリオに飛び付く。

『こんにちは、私は、ロロよ!』

話掛けられて驚く。

「あれ?ボク、ロロの言葉が分かるよ?」

『ふふふっ、番の主となら、意志疎通は出来る……の……。』

急に言葉が途切れるロロ。

「どうしたの?」

『ノーチェ!』

「はい?」

『ルルが一緒なら、ヤツを倒せるわ!』


先にも述べたようにゼノア王国は太陽信仰の国であり、月の神殿はあったものの誰も参拝に来ないような廃墟であった。

そんな廃墟に出来た異空への穴に、ゼノア王国で唯一と言って良い〈月の神〉に祈りを捧げる少女が投げ込まれた。

スコタディーノーチェは、周囲から太陽神に嫌われる容姿をしているので、太陽神に祈りは捧げるなと言われ育てられたため、自分の神は月の神なのだと信じていた。その祈りがスコタディーノーチェの命を救った。

紅い月のエリュトロンは、閉鎖していく異空間に自身の力が少しでも届くように尽力し、金の月のクリューソスは、月の加護を持つロロを少女に付けた。

「この異空には、ハグレモノがいるんだ。」

ハグレモノとは、厄災の居りにスタンピードの群れから外れ還るべき場所に帰らなかった魔物のことを言う。

『ヤツが吐き出した魔素からワラワラ生まれてくる三下はともかく、元凶が強くてね、ただでさえ閉ざされてる空間だから、エリュトロン様の加護だけじゃ倒せなかったの。でも、ルルが来てくれた!』

興奮気味のロロを落ち着かせてスコタディーノーチェが付け加えた。

「えーと、その元凶がこの異空の出口を歪ませて塞いでるのさ、月の神様達の本当の思いをゼノア王国の王様に伝えるために私達は気の遠くなる年月、ヤツと戦っているんだけど、なかなか倒せなくてね。」

『四つの月の加護が揃った今なら倒せる!』

「そいつを倒せたら、元の世界に戻れる!?」

ルキリオの問いに頷くスコタディーノーチェとロロ。


それからは早かった。

スコタディーノチェの指揮の下龍に変化したロロとルル。

そのルルの背に乗って剣を構えるルキリオ。

スコタディーノチェは後方支援だ。敵の正体は大型のカマキリだった。

虫嫌いのルキリオは一瞬怯んだが、あれだけ大きいと気持ち悪さは薄れるらしい。

敵が飛ばしてくる眷属も虫型の魔物だったが小さくても大人の頭ほどの大きさだったため気分的にマシだった。

魔法と剣を使って魔物を氷付けにして叩き壊すルキリオ。

まだ成人前だが剣の才能はあるようだと見ていた彼女は思った。後方支援のスコタディーノチェは竪琴を鳴らし、ルキリオ、ルルそしてロロに強化魔法、治癒魔法などをかけていく。

(身体が軽い……これは、あの人の魔法……?)

ルキリオの呟きに遠くで戦ってるロロが嬉しそうに答える。

『ノーチェの援護は最高よ!先見の明があるから、戦いやすいの!』

嬉しそうに闇魔法を放つロロに援護の魔法攻撃を仕掛けるルル。カマキリは、挟み撃ちにされたように逃げ場を失い、ルキリオが正面から剣を振り下ろした。


「やはり、手が足りなかったのだな、ルキリオとルルが来てくれてよかった。」

スコタディーノチェの言葉とほんわりした微笑みにルキリオの胸が高鳴る。

倒れた巨大カマキリは溶けるように消えていく途中だ。

「異空の扉が開いたら外の世界はどうなりますか?」

「たぶん、厄災が暴れ出るんじゃないかな。そして、正常な出口にやっと帰れる。ゼノア王国の民に被害が少なくて済むことを祈るよ。」

淡々と語る彼女。ねじ曲げた空間が元に戻る。今のゼノア王国に彼女のことを知っている者はいるのだろうかとルキリオは思いつつ、彼女一人に全てを押し付けた者など滅亡させられても自業自得だとも思った。

ふと目の前にいるスコタディーノチェを見たルキリオは我に返った。

目の前の女性の姿が透けてきているのだ。

「歪められていた時空が戻ることで私の時間も正常に戻るのだろう、この身体が消えるのも仕方ないことだな。」

達観している目の前の女〈ひと〉。

「そんなっ!」

よく見ればロロの身体も透けている。

『ノーチェ、お別れは嫌だよぉ、』

ロロが泣きながら言う。

「今度は、ルキリオのいるラーネポリア王国に生まれたいな、そしたら、この魔力も受け入れられるだろうから。ねぇ、ロロ?また、会いにきてくれる?」

ロロはポロポロと涙を流す。

『神様に頼んどく!』

スコタディーノチェの透けた手がルキリオの頬に触れる。

「残りの私の力を使ってルキリオを元の場所に送る。」

星のきらめきのようなものがルキリオとルルを包む。

『ルル、また会いましょう!』

その言葉を残してロロも、そしてスコタディーノチェも消えた。ゴトっと小さな音を立てて竪琴が地面に落ちた。

ルキリオは竪琴を拾う。

「ルル、ボクね、何年掛かっても、あの人を探すよ。」

自分の姿が光に包まれていくのを感じた。

「ルル、帰ろう。」

首に巻き付いて泣くルルに手を添えてルキリオと一匹の姿もその場所から消えた。



竪琴を抱えてルキリオとルルが戻ってきたのは森を越えればゼノア王国と言う辺境の森で彼の気配を感じた母アヤカ妃自らが変化して迎えに行った。

突然現れた光龍に驚く辺境伯に説明をするのは必死に追い付いて来た妃の侍従だった。

国境に接し、魔物の出現の多い森は管理する辺境伯の許可無しでは立ち入ることは出来ないが、その森からルキリオが現れたとの報告を受けてさらに驚く辺境伯。

現れたルキリオは辺境警備隊に保護され母と再会した。

「ただいま、母様。」

抱き締められたルキリオは

そこで意識を失った。


目立った怪我はないようだが大事をとってルキリオは辺境伯邸に運ばれた。

「この竪琴は?」

ルルに尋ねる。もちろん、自身の使い魔を通しての会話である。ルキリオに張り付いていたルルが答える。

『ルキリオの大切な人が持っていたものだよ。』

ルルを介してルキリオが何処に飛ばされていたのかを聞く。

「その女性は、ほんまに人間やの?」

月の神々に加護を受ける者がゼノア王国に現れるとは聞いたことがない。唯一の月であるクリューソスも満ち欠けし見えなくなることもあるらしい。そもそも太陽も彼らの世界では一つしないのに太陽信仰をしているのがおかしいとアヤカ妃は思っていた。

ルルは、スコタディーノチェや自身の番であるロロのことを話した。

「昔から、あの国は愚かやってんなぁ……。」

もうすっかり添い寝などすることのなかった息子の手を握る。

「その女性がラーネポリア王国に生まれ変わることを、ルキリオと再び出会えることを母様は、祈っとうからね。今日は、良くお眠り。」





補足*

青い月は、キュアノエイデス。紅い月は、エリュトロン。金の月は、クリューソス。銀の月はアルギュロスと言う。

因みに太陽神一柱をフリサフィス、もう一柱の名はアシメニオスと言う。

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