Prologue
サヤカとアヤカは、魔界でも旧家である公爵アヤナミ家に生まれた。
父公爵と母は政略結婚であり完全なる仮面夫婦であった。しかし、二歳年上の双子の兄と二歳年下のこれまた双子の弟との仲は良好で、父以外とは会話のある家族であった。
アヤナミ家は、代々龍の因子が生まれる家系だと言われており、家族の誰もが龍の因子をもって生まれた。しかし、サヤカとアヤカは龍の因子を持って生まれなかった。龍の因子を持つ子は、王族に嫁ぐ運命にあるとされていたため、アヤナミ公爵は双子が生まれた時、夫人の不貞を疑った程であった。
家名以外、特に国に貢献をしてこなかったアヤナミ公爵としては、王家との繋がりを強く求めていたが、長男は『龍』の因子を持っているにも関わらず、病弱で床に付いていることが多く、次男、三男は脳筋で軍部に所属するしか能が無さそうと解釈されていた。己の将来のため公爵は兼ねてから外に囲っていた愛人とその子供を公爵家の子供として迎え入れることを決定した。
愛人の子は二人とも『龍』の因子持ち主だった。変成期が過ぎる頃には「龍」か「ドラコン」か判明するだろう。
「国にも我が公爵家の役にも立たない娘などいらぬ。『狐』と『蛇』の因子など、我が公爵家の恥。早々に外に出す。」
夫人の意見など全く解することなく双子は家から出されることが決まった。
「なんてことなの!」
嘆く母に双子は笑う。
「この家におっても良いことはありんせん、母様、わっちとアヤカは出ていきんす。」
銀色に近い白髪に紅の瞳を持つサヤカ。
「オレらが居たら母様の肩身が狭くなるやけやし。兄上や弟んことは心配やけど、二人でなら、楽勝やで、母様!」
黒髪黒目のアヤカも笑いながら言う。
「どうして、あなた達はそんなに呑気なの。」
溜め息を吐く母に兄が言う。
「双子のことは、先生を通して陛下に助力を頼んでます。それに私も後数年すれば、魔力も安定して寝付くことも変成期も終わります。上手くやりますから母上は安心していて下さい。」
兄は『龍』の因子を持ちながら変成期特有の姿の変容がなかった。そのせいで魔力溜まりによる宿酔のような症状を起こしやすく病弱だと誰もが思っていた。しかし、その病弱さは父親や周囲が思っているほどではなく、稀有な『龍』の因子を持っていることで王城から派遣された医師の協力の下、力のコントロールを覚え父親の動向を観察していたのだ。
兄は、双子の頭を撫でる。
「あの人は、サヤカが龍レベルに稀有な九尾の因子を持っていることに気付いてません、ただの妖狐としかね。アヤカにしても、私は力の発現が早かったから、直ぐ『龍』だと気付かれたが、神の采配でしょう。まだ発現されてない。父の思惑に乗る必要はありません。」
斯くして、双子はアヤナミ家を出ることになった。
当初双子は魔界貴族の何処かの家に養子に出る予定だったが、アヤナミ公爵の評判が今一つだったため誰も名乗り出なかった。魔王陛下としても稀有な因子を持つ双子を魔界から出すことは考えてなかったが、そんな折、同盟国であるラーネポリア王国から魔界王家、もしくは貴族家の血筋の者をラーネポリア王家の第二王子の妻として迎えたいとの申し出がきた。
魔界王家としては、双子の行き先として申し分無く、取り敢えず二人を送るのでどちらか一人でもいいのでの言葉を添えて双子を送り出した。




