第十三章「異変の始まり」7
「また厄介なことに巻き込んでくれましたね……街の外に出られないということは、私たちはこの監獄の中に閉じ込められたということかしら」
手塚金義巡査が次の職務へと向かい、二人きりになった私は愚痴をこぼすように呟いた。
「だが、絶望するのはまだ早いでしょう。
それに、稗田先生のお立場からしても先ほどの話しは知っておいて損のない情報であったのでは?」
誰もが安心安全を求めて情報を欲しがるような状況だ。
それに私は複雑な事情を抱えている。
茜たち社会調査研究部の部員の安全のためにも情報が有益であったのは間違いなかった。
「それは確かにその通りかもしれませんが……貴方の目的も分からない内にこうも巻き込まれては、疑い深くもなります。私を何か大変なことに利用しようとしているのではありませんか?」
「ただ対応が後手に回る事態を防ぎたいに過ぎんよ。
俺は二人を連れて街の様子を確かめると共に、街の外に出入りする方法を探る。市長が行方不明だというのも気になるしな。行政側の動きも見極めておく必要がある。
学園長への報告は先生の方からよろしく頼む」
「正気ですか……?」
二人きりになった途端、遠慮一つなく次の行動へと移行しようとする守代先生、この決断力の速さは真似できるものではないと私は思った。
「現場を見なければ、原因を突き止めるのも遅れていくだろう。
それに、外とのアクセスが出来ないとなると、意図的に引き起こされた超巨大なファイアウォールで街全体を覆っている可能性も考えなければならない」
「ナンセンスですよ……それは……。
それが真実であると断定できたとして、どう人々に理解してもらうというのです?」
「全てを理解してもらう必要はないさ。重要なのはこの狂った状況から世界を元に戻すことだ。原因となる障害を取り除けば、この狂った現象も終わる。
これが非科学的な現象であるなら、それに対応できる我々が解決しなければならない問題だ。学園長なら分かってくれるよ、彼も心霊体験に悩まされていた一人だからな。
学園長の場合はただ疑心暗鬼になって自滅しかけていただけだが」
一気に持論を展開する守代先生、それに学園長との関係まで口にする彼は、この状況を打開できるのは自分だけだと言いたげなほどだった。
言いたいことを言って満足したのか、そのまま私の言葉を待つことなく学園長室を去っていく。
街全体を覆ってしまうほどの結界を展開し、維持し続けているとすれば、それはどれほどの奇跡なのかと信じたくない気持ちに囚われる。
本当にそれほどの超能力を持った魔法使いがこの街にいて、何かの目的のためにこのような事態を引き起こしているのか……。
それとも、未知のゴーストが私たち人間を敵視して駆逐しようとこの街に混乱をもたらしているのか、今はまだ、何もわからなかった。
*
守代先生が自分の自動車にアンナマリーと奈月を乗せて学園を飛び出していき、私は現状を伝えるためにも社会調査研究部の部室へと向かった。
警察や行政も対応に追われている、無闇に外には出歩かないようにと念押しすると私は学園長が帰ってくるのを待つ間、屋上へと上がった。
タバコに火を付け、心を落ち着かせ、静かに思案に暮れる。
状況を打開する方法が魔法使いにあるとすれば、彼女たちは率先して駆け出していくだろう。
彼女たちに無理をさせたくないが、今は守代先生の分析を待つしかない。
そう考えていると、雨音が慌てた様子で私の下へとやってきた。
「先生……可憐が内藤医院に行ってくるといって、一人飛び出して行ってしまいました」
私は部員達には今日のところは家に帰って家族と一緒に過ごしてほしいと思ってた。
だからこの時、雨音がこれほど息を切らし、慌てている姿をあまり私は大事に見てはいなかった。
「落ち着きなさい、慌てたところで混乱が広がるだけよ」
「そうですけど……妙な胸騒ぎがして……。
私もそうですが、みんなもなかなか家に帰る気持ちにはなれないみたいで」
部長として部員たちを心配する気持ちはよく理解できるところだった。
「私は学園長が戻ってくるまで帰れないけど、貴方たちは学園に居座る理由はないはずよ……」
私が言ったところ不安が消えるものではない。
夜がゆっくりと近づいてくる中で不安は募っていくばかりだった。




