第十三章「異変の始まり」5
何か妙に信頼を置かれ、守代先生の策に乗せられているような心地だったが、私は逃げ出すわけにはいかず、学園長室を訪れた。
「稗田黒江です、失礼します」
ノックをして返答を待たずに私は学園長室に入った。
防音設備が効いているのか、学園長室の中は驚くほどに静寂に包まれていた。
さすがは学園長室といったところか、黒い革製の高級カウチソファーやトロフィーや賞状、盾がいくつも並んだ棚が置かれ、この凛翔学園の歴史を感じさせてくれる場所だった。
ソファーには見知らぬ警察官と守代先生が座っており、学園長も机から立ち上がったまま、何か思い悩んでいるようで、落ち着きのない様子だった。
「ようやく到着ですか、まぁこんな状況になっても変わりありませんね、稗田先生は」
到着して早々、守代先生は私に嫌味のようなことを言った。
放課後になって突然呼ばれたのだからと、反論してやりたかったが街の治安維持を任される警察官と凛翔学園の最高権力者である学園長が同席している前では、私も思ったままの発言は出来ない状況だった。
物々しい雰囲気に圧倒されてしまうが思考停止している場合ではない。
私は守代先生に鋭い視線を送った。
「状況が逼迫しているというのは分かりますが、どうして私が呼ばれたんでしょう?」
「それは、守代先生からの進言があってね。稗田先生は冷静で頼りになると」
学園長が間を割って言った。表情は硬くこの緊急事態に追い詰められているように見えた。守代先生が腰を下ろし、冷静に足を開いてソファーに座っているのに対して、大きな差を感じた。
私は本当にそんなことを守代先生が仰ったのかと瞬時に思ったが、問い詰めている暇もないだろうと判断し、話しを聞くことにした。
「買い被りな気がしますが。それで、私は何をすればいいのでしょう?」
「私はこれから他の学校と合同の緊急会合がある。
こうなってしまった以上、意見交換をするのが急務だ。
よってすぐに私はここを出なくてはならない。
守代先生と一緒にわざわざお越しくださった警察の方から詳しい現状の確認を済ませ、結果を報告してほしい」
「そういうことだ、君が適任だと思って勝手に判断してしまった。すまないがここは緊急事態と見て、協力してほしい」
私は守代先生が何故ここまで学園長に頼られているかの方が不思議でならなかったが、それを確かめることは後でもできると思い。学園長の指示に従い、素直に警察官から現状の流れを聞くことにした。
厳しい顔をしたスーツ姿の学園長が部屋を出ていき、私は警察官に向かい合う形で守代先生の横に座った。




