第十三章「異変の始まり」4
通信障害が続いたことで動揺は見られたものの、放課後を迎えた。
依然として通信機器はスマートフォンからパソコン、固定電話に至るまで使用できない有様だった。
他の先生に聞いても復旧のめども原因も分からないということで、放課後までは深いことを考えず授業に集中したが、放課後になっていよいよ本格的に対策を考えなければならないのではないかと思い始めていた。
校舎の窓から空を見上げると、午前中の時間から曇り始めた空はさらに分厚い雲に覆われ、放課後に至ってはまるで霧が辺りを立ち込めているように見える異常な光景だった。
これほどの気象変化を人為的に発生させることは不可能であるし、自然現象としてもなかなか見るものではない。
私はどうしたものかと思いながら、生徒達が帰っていく姿を見送りながら職員室へと戻った。
「あぁ……稗田先生、一体何が起こっているのか分かりますか?」
職員室に戻ると同学年の担任を受け持つ烏丸先生が声を掛けてきた。
赤いカーディガンを羽織った眼鏡をかけた女性教諭で、彼女は私より年齢が十歳以上も年上だが、教師としての情熱や威厳などはなく、普段からよく疲れた表情をしている幸薄そうな印象だった。
「いえ、具体的には何も……」
もはやこの異常事態に至った理由を分かる人がいれば、それは当事者以外に考えられないだろうと私は思った。
もちろん、そういう意味で烏丸先生が私に聞いたわけではないと思うが、原因不明というのは人を不安に陥れるものだ。
これが自然現象として発生した天変地異のようなものだという暴論もできるが、それはここまでに発生している事態を見れば現実的ではない。
方法はまるで分からないが、ハッカー集団や反社会的勢力などの何らかの人為的介入があると考えるのが冷静な意見と思えた。
「そうですか……いえ、パソコンやケータイはおろか、テレビまで観れないとなるとまるで状況が分かりません。ラジオも時々音楽が流れてきたりするくらいで、まるで役に立たないんですよ」
テレビまで観れないというのは初耳だったが、電波障害が続いているならそれも考えられることかと一人納得した。
ラジオの方は音楽だけは流れるなどオカルト的なもので気味が悪いが、私が直接聞いたたわけではないので妄想の可能性もある、今は考えない方がいいだろうと私は思った。
「はぁ……これだけの騒ぎになれば行政機関や警察、消防が動くはずですから、市民である私たちはそちらの誘導指示を待つのが先決ではないですか?
あまり想像を働かせて勝手な行動するのは慎んでおくのが賢明だと思いますが」
返答をするのに深い考えはせず、自分なりに避難訓練通りの対応をしてみた。
これで少しは教師らしく冷静になってくれるなら、それに越したことはないだろう。
「稗田先生、普段から冷静で落ち着いていた雰囲気があると思ってましたが、思った通りの方ですね。あの、事情はよく分からないですが、先程守代先生から伝言を預かっていまして、稗田先生を見掛けたら学園長室まで来てほしいと」
「今からですか?」
そんな具体的かつ緊急の用件があったのなら先に言ってほしかったと、言葉にして吐き出すことはできないが私は思った。
「そのようです、状況が状況ですし、緊急の用件と考えた方がいいんじゃないですか?」
「分かりました、すぐに向かいます」
私は急な用件を受け入れ、不安そうにしている烏丸先生に踵を返して、早足で職員室を出ると、気乗りはしないがほとんど入った覚えのない学園長室へと急行した。




