第十三章「異変の始まり」2
二限目、私が教科書を手に世界史の授業をしていると教室の外をずっと眺めている茜の姿が目に入った。茜は美人であるからその光景は絵になるほど心惹かれるものだったが気になることは他にあった。
ずっと遠くを見ているような瞳をしている茜の視線の先には、分厚い白い雲が漂い、燦々と輝く太陽も、青空も顔を隠していた。
薄暗い空の様子は心までも曇らせてしまいそうで、憂鬱な空気がこちらまで漂ってきた。
”分厚い雲が空を覆ってる……天気予報は一日晴れのはずだけど……”
私は今にも降り出しそうな空を見て思った。
朝の天気予報は確認済みだが、雨が降るような予報は聞いていない。
今日の肌寒さにしてもそうだ。太陽が雲で隠れているから当然とも見て取れるが、それにしても他県と明らかな差異があり、この地域だけが異常気象に見舞われているような感覚を覚えた。
これが心理的な不安がもたらしている見解ではないと思いたかった。
今も頻繁に茜たちは夜の見回りを続けているが、ゴーストの姿を見掛けることがめっきり減って来たという。
その要因が人々から不安が消えたからであるならいいのだが、そう楽観的には捉えられないほどに、日々流れるニュースは不穏なものに満ちている。
戦闘時には緋色に輝く茜の瞳が今は穏やかな黒い瞳をしている。
私は茜には平和に過ごしてほしい、戦いのない平和な世界で青春を満喫してほしい。
そう思うからこそ、今のゴーストが出現しない穏やかな日々を大事に過ごしてほしいと願うが、茜の表情を見るとどこか落ち着かない焦燥感に駆られてるかのようだった。
私は授業に集中するため、茜から視線を外した。
その次の瞬間だった、地震が発生したのが突然ガタガタと揺れ始め天井の照明が前触れもなく点滅を始めた。
教室がザワザワとし始め、点滅を続ける蛍光灯を見る。
一五秒ほど地震は収まりすぐに蛍光灯の明かりは元に戻った。
「みんなとりあえず落ち着いて、現状を確認するわ」
確かな揺れを感じたのにも関わらず、特にアラートなどが地震の発生を伝えてくれることはなかった。
私は停電などではないことにまずは安堵すると、生徒たちの無事を確かめ、騒がしくなった生徒たちを落ち着かせた。
その後、ニュースなども確認したが、学園にいたほぼ全員が震度3~4程度の揺れを体感したにもかかわらず、地震が発生したという事実は、どのニュースサイトを調べても見当たらなかった。




