第十一章後編「夏色ホームパーティー」6
「すまないね。最近はずっとネットワークの調子が不調で、対応に追われていたよ」
「そう、いいのよ。こっちも大仕事を終えたところだから。
学園が夏休み期間に入れば、私も休みが取れるから、一、二週間はそちらに行くことが出来ると思うわ。うん、もちろん凛音も連れて行くわよ。
あの子が寂しがる姿は見せないけど、たまには会いたいでしょ?」
モニターに夫の姿が見える中、会話を続けていた。
凛音を連れて、夏休みの間に夫と過ごす。夏休みといっても仕事はあるからあまり長居は出来ないが、しばらく会っていなかったこともあり、一、二週間は一緒にいようと思った。
凛音を一緒に連れて行くのは凛音が寂しがるからということではない。
問題は夫の方で、一人娘の凛音のことを幼い頃から可愛がって溺愛していた事もあって、会わせてあげないわけにも行かないのだ。
それに限らず、私と夫が二人きりになると夫が幼児化して酷く甘えてくるので、私自身が耐えられないという要因がある。もう大変なのだ……付き合いが長いとなれば。
夫の二人きりになった時の変わりようと言えば、とんでもない変態さだ。
考え始めたら嫌なことを思い出してしまいそうだ。大の大人の男が日本語を忘れてバブバブ言う姿を見たくない。普段の仕事している姿とは大違いで、情けないったらありゃしない。
「だからよろしく、そっちも休みを空けておいてね。仕事ばっかりしてたら、凛音に呆れられてしまうでしょ?
そういうことだからよろしく。もちろん、こっちで起こった事件のことも会った時に詳しく話すわ。
本当に、信じられないくらい、勇敢な少女達なんだから……」
改めて夫と話しながら私は気分が高揚していることに気付いた。
私は最初は不安や孤独感を覚えてこの街にやってきたのに、茜たちと出会って心がすっかり充足されている。
激しいゴーストとの戦いに巻き込まれてきたというのに、あまりに不思議な心地だった。
私の提案に夫は納得してくれたようで、会話はほどほどにして通話を終えた。
通話が終わり、ヘッドホンを外し、最近辛くなってきた肩こりを気にしていると凛音が軽くノックをして部屋に入って来た。
「お父さんと話してたの?」
部屋に入って来た凛音は既にエプロン姿ではなく、お風呂に入って来た後のようだった。
すっかり考え事や夫との会話に夢中になって時間が過ぎていたようだ。
お風呂上がりの髪の濡れた火照った凛音の姿。それはすっかり大人に近づき成長した姿をしていて、世の男達には見せたくない色気が漂っているものだった。
「そうよ、夏休みに入ったら向こうに少し帰れるから。その打ち合わせをね」
「そっか、私も向こうに帰れるなら友達に連絡しておかないと。久々に会えるの楽しみだなぁ」
健やかに育った凛音。内に秘めた悩みさえ見せることなく、前向きに生きている姿が私を安心させてくれている。
最初は心配で仕方なかったが、茜たちとも良い距離間で付き合ってくれている。
凛音もこの街の暮らしに慣れ、楽しめているのを感じる。茜たちには感謝してもしきれないだろう。
「そういうことだから、たまにはお父さんと遊んであげなさいよ。きっと寂しがってるだろうから」
「それは……お母さんが一緒にいてあげればいいのに」
年頃なせいもあって、凛音は夫よりも友達の方がずっと大切なようだ。
可哀想な夫のために、この夏は私が一緒に過ごすことになりそうだった。




