第十一章後編「夏色ホームパーティー」3
少女たちは疲れを知らず、ずっと盛り上がった雰囲気の中で話しをしている。
凛音が台所に向かっていた時、リビングで可憐は何とも興奮気味にこんなことを話していた。
「先輩方、今日まで大変な日々だったのでなかなか言い出せなかったのですが。魔法戦士としての名前はないんでしょうか?
私はつい気になって考えてて、キュアアリエスみたいな。そういう名前を付けたら可愛いと思いませんか?」
何とも可憐らしい発言だと思ったが、拍子抜けしてしまった私がいた。
ゴースト退治をふざけた気持ちでするものではないという思いがある私だが、この場は静かに見守っていることにした。
「私は茜の作った衣装を着させられてるだけで恥ずかしさ十分だから、そういうのは遠慮しておくかな……」
一番に雨音が返答をした。実に私にとっても納得な回答だった。
「私はいつも巫女装束で戦ってるから、真面目に捉えちゃってるのよね……。だから、そういうのを考えることがなかったかな。魔法少女ものとアニメも茜に勧められたものしか見てこなかったから、よく分からなかったから……」
麻里江は神社での家業第一として育てられたからか、若者文化に疎く、こうした話題にもいまいちついていけていないようだった。私が麻里江とは話しやすいと日頃感じているのは、こういう部分にも表れているのだろう。
「そうなんですね、意外とこういうのには積極的じゃないんですね。気持ちが高ぶって高揚したりして、戦意が向上するのかなぁと思ったのですが、そういう訳じゃないんですね」
「それは……茜だけでしょう……」
ちょっと残念そうな表情浮かべる可憐に雨音が答える。
そして、反対的な二人に挟まれる茜がそっと口を開いた。
「可憐、そういうことなのよ。あたしだって分かってるの、魔法少女要素があたし達には圧倒的に足りないって。でもあたし一人がやっても盛り上がりに欠けるし、恥ずかしいだけになっちゃうから、そういうのはなしにしてたのよ。
必殺技の名前とかも、ロクに考えてなかったり……そういうので分かると思うけど」
本当はやりたいけど、一人では踏み出すことの出来ない茜の姿を見ると、さすがに居たたまれなくなってしまう。
とはいえ、夜に目立つような衣装を着て見回りをしている時点で不審者極まりないのだ。これ以上余計なことに手を出して通報されたり街の噂になられては非常に困る。この話題はこのままお蔵入りになってくれるのが好ましかった。
「そうですか……せっかくファイアウォールを展開してるんだから。
ちょっとくらいは張り切ってカッコよく見せてもいいのかなぁと思いましたが。
皆さんがその気にならないのであれば、仕方ないですね……」
可憐が三人の気持ちを理解し、寄り添うような言葉を贈る。
ファイアウォールの結界をそういう風に捉えて好き勝手するものではないと、私は心の中で思った。
だが、そんな可憐に茜はまた余計なことを言い始めた。
「それじゃあ、可憐には私が新規デザインした衣装を作ってあげるわね。
そうだな……ピンクを基調した衣装にツインテールで戦ってみるっていうのはどうかしら?」
いや、それは最悪に恥ずかしいからやめなさいと、思わず私は心の中で頭を抱えた。
「ちょっと恥ずかしすぎませんか? 私は魔法少女ガチ勢ではないですから……普通に恋愛も楽しむ、高校生ですからねっ!」
「えぇ……その気になってくれると思ったのに。
今のあたし達にはピンク要素が足りないって思ってたのに残念ね」
ピンク要素が足りないとはどういう意味なのか……全く理解の追い付かない私はもう頭がやられてしまっている。
それから可憐は恥ずかしがって全力でピンク担当を拒否し続けた。
茜曰く、茜が赤担当、雨音が白担当らしい……。
麻里江は巫女装束だから見た目魔法少女ではない状況にあるが、今後、覚醒する少女が増えれば、緑担当やブラック担当が増えたりするのかと想像の羽を伸ばすと恐ろしくて頭が痛くなってくるのだった。




