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14少女漂流記  作者: shiori


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第十一章後編「夏色ホームパーティー」2

「いらっしゃいませ。暑かったですよね、どうぞ先輩方、遠慮なさらず入ってください」


 玄関先で凛音が手招きをして丁寧にお辞儀をして茜たちを迎え入れる。

 今日の凛音は水色に縞模様をしたワンピースに薄ピンク色のエプロン姿をして、さらにカチューシャまで着けてとてもご機嫌な様子だ。私は可愛らしい格好をする娘の姿に浮かない表情をするわけにもいかず、今日のところは好きにさせてあげようと静かにしていた。


「ホームパーティーだなんて最初ビックリしたけど誘ってくれてありがとう、先生は中にいるの?」


 靴を脱いで玄関を上がる元気な茜の声が家の中にまで響き渡る。リリスとの一件で大変な目に遭った茜だが、声を聴く限りまるで心配のいらない元気さだった。


「はい、リビングでコーヒーを飲んでゆっくりしてますよ」


 凛音の言葉通りコーヒーを飲みながら微笑ましい仲の良いやり取りに耳を澄ませる私。

 新鮮に感じる私服姿の茜たちがリビングルームに入ってくると、いよいよ私は自分だけが年を食っているこの状況に気恥ずかしい気分になった。


 麻里江と雨音を含めた茜たち三人が千尋も連れて仲の良い雰囲気で挨拶に来て、そのすぐ後には、可憐と静枝、それにひなつもやってきてすっかり賑やかな一つ屋根の下となった。


 一人一人だと意識しなかったが、これだけ多くの女子高生がしかも私服姿で集まると、話し声が賑やかで騒々しいだけでなく、香水だけではない良い香りも冷房の掛かった部屋に漂ってきていて、何とも若々しく華やかな雰囲気が伝わってくるのだった。


 それは、ずっと凛音が鼻歌を歌いながら意気揚々とパーティーの準備に没頭する中、休日のサラリーマンのように椅子にじっと座ってタブレット端末片手にテレビを見ていた自分が後ろめたくなるほどだった。


「先生、お邪魔します」

「いらっしゃい、元気そうで安心したわ。私は邪魔しないよう引っ込んでおくから、ゆっくり過ごしていってちょうだい」


 私はうら若き乙女たちの熱気に押され、席を立ちあがった。

 忙しさに忙殺され、少し自分の年齢を忘れることが出来たような気分の中、味わされるこうした予想外の出来事。世代差を嫌というほど体感してしまう女子高生達を前に、私は早くも限界に達してしまった。


「お母さんったら、すぐ年齢を気にするんだから」


 私の横に立った凛音がこの場から立ち去ろうとする私を責める。凛音は積極的に私をこの輪の中に入れたがる、こうなるとなかなかこの場から離してくれそうになかった。


 私の意図しないままに今に至るまで広がっていった輪。

 最初は夜の公園で私が担任教諭を務める茜たち三人のクラスメイトがゴーストに対峙する姿を目撃し、それをきっかけに三人を見守ることになった。

 さらにゴーストに襲われる危機だった可憐と静枝を助け、それに千尋も加わって三人が同時に社会調査研究部に入部、同じように見守ることになった。

 その後、ひなつも私たちが立ち向かっている現実を知ることになり、巻き込むことになった。


「チーズケーキが焼きあがりましたので、皆さんどうぞ食べてください」


 既に色とりどりのお菓子や麻里江と千尋が持ってきたお手製のおはぎがある中、弾けるような眩しい笑顔で凛音によって運ばれてくるチーズケーキ。

 濃厚なクリームチーズで作られた焼きたてのベイクドチーズケーキのレモンとバニラの酸味と甘味の入り混じった絶妙な香りに引き寄せられ、テレビゲームに興じていた少女たちが湧き立って集まってくる。


 私の下にもお皿に載った綺麗なチーズケーキとフォークが渡され、一緒に頂くことにした。

 凛音の作るデザートは日ごとに進化していて今回のチーズケーキも美味しく焼き立てなこともありほっぺが落ちそうな味わいだった。ふわりとした生地の舌触りにとろけるようなチーズの味わい、それに甘さ控え目に仕上げているのか、甘ったるさを感じることなくあっという間に完食することができた。


「うぅ……涙が出そうなくらい美味しいよ。凛音、もううちの嫁に来てくれないかな?!」


「ええええっ?! 茜先輩のお嫁さんですかっ?! それは、とっても嬉しい婚約ですが、しっかりお母さんとお父さんに相談しませんとっ!」


 いやいやいやいや……。茜の言葉はお世辞だろうとすぐに分かるはずのものだが、凛音は顔を真っ赤にして乙女の眼差しをして、茜のことを直視できなくなっていた。

 妄想盛んな年頃ではあるが、凛音の耐性のなさには誠に不甲斐なさを私は覚えるのだった。


 

 事情があったにせよ、この街に凛音を連れてきた責任は私にある。

 これまでも凛音のことを連れ回してきて、転校をさせてしまった過去がある。そのたびに凛音は新しい生活の始まりに不安を覚え、友達が出来ると安心したように喜んでいた。

 やがて訪れる別れの辛さを知っていても、その場で幸せを噛み締める凛音の気持ちを私は今度こそ、理解してあげる時が来たのかもしれないと思う。


「これからは和菓子ばかりにこだわらず、こうしたお菓子にもチャレンジしていかねばなりませんね」


「そうだね、姉さん。新しい風を受け入れて、私たちも成長していかないと!」


 凛音のチーズケーキの味わいに感心し、真剣な表情を浮かべる麻里江。

 それに同調する同じ神代神社で暮らす妹の千尋。制服姿と巫女装束ばかりしか二人の服装を見る機会がなかっただけに、今日は私服姿で年相応の可愛らしさと煌びやかさを二人から私は感じ取ったのだった。



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