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14少女漂流記  作者: shiori


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第十章「平和な世界のために」7

 私はひなつと一緒に戦場から近い古びたビルの屋上へと上り、イヤホンを付けたまま茜の衣装に取り付けられた盗聴器で音を拾い、リリスとの決戦を見守ることにした。


 ここから見下ろすと早朝ということもあり数多くのバスが運転手を待ち駐車されている姿がよく見える。


「大丈夫ですよ、祈りはきっと届きます」


 両手を合わせ、同じく地上の様子を見守る眼帯を着けたひなつの言葉に私は頷く。茜たちを信じて待つ。今の私はそれが自分に課せられた大切な役目だと思い、風に吹かれながら戦いを見守った。



「色男な守代先生、二人は私たちがお助けしますっ!!」



 落ち込んだり、涙を零したりと感情豊かな可憐が元気を取り戻し、守代先生に意気込む様子のまま告げると、もはや怪物と化したリリスへと二人を助け出け出すために飛び込んでいく。


 新たなる標的の出現に喜ぶように次々に迫る異形の腕を躱し、アンナマリーへと可憐は真っすぐに近づいていく。


「私は立ち止まったりしない!! 茜先輩の力になれるように、もっと強くなるって誓ったんだからっ!!」


 ゴーストに対する恐怖心は人一倍まだ残っているが、覚醒してまだ日が浅いとはいえ、超能力を駆使した魔法使いの戦いに最初から抵抗感はない。

 ヴァイロキネシスの力を帯びたヨーヨーを使いこなし、アンナマリーの身体をがっしりと掴む腕に雷撃を放つ可憐。ヨーヨーが巻き付いた異形の腕は力を失い、アンナマリーの身体を地面に落とした。


 一方、奈月の方に向かっていく静枝。武器などは持っていないが果敢に襲い掛かってくる腕を躱し、確実に奈月の現在位置目掛けて近づいていく。よく見ると超能力を操って念力で腕の動きを触れることなく停止させている。自分も戦うという言葉通り、静枝も勇敢にこの戦場に挑むだけの力を秘めていた。


 その静枝の様子と一緒に奈月の姿を確認する麻里江は既に目を凝らし正確に弓を射る体勢に入っていた。


「大丈夫っ! この一撃でっ!! レイジングアロー!!」


 奈月の身体を拘束する腕に狙いを定め、光を操るフォトンキネシスの力によって光り輝く矢を放つ麻里江。

 起死回生となる光の矢は功を描いて飛んでいく。

 空に眩き消えていく星のように、矢は鋭く腕に突き刺さったまま消えるように吸い込まれ、大きな振動を巻き起こした。


「グガァァァァ!!」


 怪物の怒号のような絶叫が鳴り響き、掴んで離さなかった腕から奈月の身体が解かれる。

 アスファルトの地面に衝突する寸前のところで静枝が何とか小さな身体で奈月を受け止め、後方へと非難させてくれる。見事な連携だった。


 痛みに苦しみながら、理性を失ってなおも暴れるリリス。可憐は立ち止まらずに迫りくる腕を対処し、何とか雷撃を放ち、一本ずつその腕を無力化していく。

 キリのないほどに湧いて出てくる腕に可憐は嫌気が差しながらも懸命に手を緩めることなく立ち向かった。



”先生、あたしはあたしらしくいて、いいですよね?”


 

 茜の生気に満ち溢れた声が、私に届いた。

 仲間たちの果敢な雄姿を見ているだけで茜の情熱は十分すぎるほど湧き上がっていた。


「もちろんよ、人が安心して眠るために。この事件を終わらせてやりなさい」


 真っすぐに自分を信じて生き抜こうとする茜へ、私は勇気を与えるための言葉を贈った。


 どれだけ傷ついても挫けない心を持った茜。

 心や身体に受けたあの時の痛みは一生消えることはない。

 それでも、茜は茜らしく、戦場という自分が一番に輝ける舞台へと駆け上がっていく。


 何度だっていい、茜が茜らしく生きられるなら、私は何度でも声を届けよう。


 仲間たちが見つめる中心へと向かう、彼女の迷いのない歩みが、ここに集った仲間の絆をより大きなものにしてくれるから。



 茜は昼夜を問わず戦場を選ばない。朝日を浴びても変わらない勇敢な姿で、街を守るため茜はもう覚悟を決めていた。

 

 マントを脱ぎ、帽子を脱いで、颯爽に駆け出していく。

 派手に見える胸元が開いた薄手の衣装と短いスカートにスパッツを履いて、茜が皆の想いを受け取って宿敵となったリリスへと立ち止まることなく向かっていく。


 一度やられた仕返しのためか、より気合を入れるためか、金属バットを握り迫りくる腕を叩いて振り払っていく。


 巨大な化け物となったリリスを目の前にし、茜の表情がさらに強張る。


「気を付けて!! 茜っ!!」

 

 後方で茜のマントと帽子を強く握り、心配そうに見つめる雨音が声を掛ける。


「分かってるっ!!」

 

 威勢よく声を上げ、返事をする茜。その表情には一点の曇りもなく、強大な怪異と化したリリスに動じる様子一つなかった。


 しかし、迫る茜の姿に危機を感じたのか、高い位置にあるリリスの口が大きく開かれ、台風のような激しい嵐が巻き起こされた。そして、さらに火炎放射器の如く激しい炎が茜目掛けて放たれる。


 予想だにしない攻撃により、目の前に襲い掛かる獄炎を何とか金属バットとシールドを前方に強く展開し受け止める茜。


 それを見た雨音と麻里江が嵐に負けることなく駆け出し、窮地を救う力になるため茜の下へと向かっていく。


 真っ赤に染まる視界と燃えるような熱さを必死に耐え凌ぐ茜、麻里江が先に合流を果たし、球体のファイアウォールを展開して防御に努めた。


「私が攻撃を防ぐからっ!! 思い切りやってっ!!」


 今度こそはリリスを仕留める。その一点に魂を込めて麻里江が全魔力を放流して防御を固める。


 黒焦げになった金属バットを見た雨音は、茜に向けて自分の持っている傘を手渡した。


「茜ならできるよ、私は信じてるから」

「ありがとう、信じるよ。雨音がいつも傍にいてくれるから私は頑張れる」


 アイコンタクトをして、信頼しあう二人はより強い繋がりを見せつけた。


「そうだよ、茜ったらいつも私を巻き込んで恥ずかしい格好させてるんだから。こういう時くらいカッコいいところ見せてよね」


 雨音がずっと握って想いがいっぱいに込められた傘を黒のフィンガーレス手袋を着けた茜が受け取る。

 開くと内側が薄ピンク色で外側が白の雨音が好む可愛い傘。

 躊躇うことなく差し出した傘を握るとそこに確かな熱の入った魔力がいっぱいに込められているのが茜にも分かった。


「うん、絶対傘が壊れちゃうから一回きりだけど。これなら、全力が出せそうだよ」


 たった一撃にすべての想いを込める、そのために茜はネックレスチェーンの先にある緑色の宝石を強く握り、目をつぶって祈りを始めた。


”マギカドライブ”


 私が教えた宝石の力を借りた禁断の秘術。

 魔力を爆発的に増大させてくれる宝石に込められた魔力を開放する魔力行使は茜のような正義に燃える少女にこそふさわしい。



「はぁぁぁぁ!! マギカドライブ、起動っ!!」



 先の見えない攻防を皆が見つめる中、想いを込めて茜は言い放った。

 宝石を中心として放出される未知のエネルギーにより、茜の身体から光が溢れていく。


 膨大な量の魔力が空間を支配して、何人も寄せ付けないほどに光を纏ったエネルギーが強大になっていく。

 

 雨音と麻里江は状況が変わったことを認識して茜から距離を取る。


 ただひたすらに祈りを込めて、宝石の力が発動したことを確かめた茜は、確信を持ってこれが奇跡を呼び起こしてくれるものと信じ、目標をリリスに定め、両手で傘を天高く伸ばした。



「ファイアブランドっ!! あたし達を導いてっ!! 

 いけぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」



 傘の何倍以上に伸びる光の柱を茜は全力の力でリリス目掛けて振り下ろした。


 どんな得物を手にしても変わらない、茜のファイアブランドへの願い。


 この場にいる誰もがたった一つの願いを祈り、結末を見つめる中。光の中に消えていく巨大な化け物となったリリス。

 

 ゆっくりと光が消え、跡形もなく消失した悪霊。


 全ての願いを込めて振り下ろした茜の一撃は、まさに奇跡となってリリスを討ち払った。 


 役目を終えて光を失う緑色の宝石。

 全身全霊の賭けた一撃でリリスを仕留めた茜へ麻里江と雨音が駆け寄っていく。茜は勝利を噛み締めるように空を仰いだ。


 私はようやく戦いの終わりを実感し、肩の力を抜いた。


 これ以上の犠牲は許されなかった上位種と呼ばれる危険なゴーストとの戦いがここに終結した。


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