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14少女漂流記  作者: shiori


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第十章「平和な世界のために」6

 リリスとの決戦の幕が上がった市バス車庫ではリリスと二人の少女、奈月とアンナマリーとが激しい攻防を繰り広げていた。


 蓮はその戦闘には直接介入せず、ファイアウォール内に閉じ込められてしまった市バスの運転手たちに駆け寄り、催眠術を掛けて回っていた。


 リリスに利用される前に深い眠りに入ってもらう。そうすることで人命を救うことにもなる。蓮はそう考え行動したのだった。


 リリスのような上位種のゴーストには魂砕きと言われる魂のみを生きた人間から奪い去る術も持ち合わせている。

 こうして紛れ込んだ一般人を使い魔として使役されれば戦いはより厄介なものになる。それだけは蓮はならないと警戒して先回りした行動を取ったのだった。


「はぁぁぁ!!」


 大鎌を振りかざすリリスに対し、奈月が後ろを取って双剣で立ち向かっていく。

 だが、それにも瞬時に気付いたリリスは空いた手を広げ、奈月の身体を念力で吹き飛ばす。サイコキネシスまで自在に使いこなすリリスは機敏に二人を同時に相手にしていた。


「さっきの勢いはどうしたのかしら? 動きが鈍っているわよ?」


 余裕の表情を浮かべるリリス。茜を苦しめたその力はまるで衰えておらず、奈月とアンナマリー相手でもなかなか打開できない事態に陥っていた。


「まだまだっ!! 懐に潜り込みさえすれば!!」


 槍を器用に扱い、何度も大鎌とぶつかり合う。


 黄金銃の魔銃の力に頼りたかったが、リリスの力に拮抗するため、両手で強く握って立ち向かわなければ槍で凌ぐさえ出来ない。


 無駄撃ちが出来ない以上、急所を狙うため近距離から狙いたかったが、なかなかリリスから隙を取るのは困難だった。


「マリーちゃん!! お願い!! 離れて!!」


 奈月が魔力を集中させ、待機しているのに気づいたアンナマリーが一旦離れた。


 双剣に風の力を込めてVの字に斬りかかっていく奈月。決死の一撃は多くの魔力を必要とするが隙を作るのには十分だ。


 疾風の如く放たれた双剣を大鎌で的確に受け止め、奈月から放たれる激しい風圧に耐えるリリス。


 奈月の勇気を振り絞った必殺の一撃で、後方ががら空きになったところを狙い、今度は隙を付いてアンナマリーが魔銃を構え、次々に弾丸を発射させた。


 魔力を持つ相手にこそさらに真価を発揮する魔術師殺しの弾丸は一気にリリスの身体を貫き、魔力ごと奪い去っていく。


「グガァァアァ!! ギャガァァァァァァァァァ!!」


 怪物が悲鳴を上げるような絶叫を上げ、激しい音圧を引き起こすリリス。


 油断はせず、歯を食いしばって反動に耐え、弾切れになるまで力強く打ち込んだ弾丸の威力は想像以上で、悪霊であるリリスは藻掻き苦しみ、近づくことさえ出来ないほどだった。


「……なんとか、これで」


 緊迫感をある連続に、疲労感を覚えながら奈月が双剣を下ろし、様子を見つめる。


「黄泉の国に還りなさい。随分苦労させられたけど、これだけ撃ち込めば十分でしょう……」


 激しい戦闘で疲労の色を隠せないアンナマリー。

 膝をつき、ゴーストが成仏する様子を見守っていたが、異変はすぐに起こった。


 人間とほとんど変わらない姿をしていた妖艶な女の姿をしていたリリスが体内から暴れだす何者かによって、身体を変異させながらどんどんと膨張していく。


 あまりに異常な信じられない光景に茫然と見つめる奈月とアンナマリー。

 全く原形を止めていないほどに不気味で歪なモンスターと化したリリス。


 まるで成仏する気配のないリリスは、呪いをまき散らすように色濃い紫色の液体を身体から吐き出し、次の瞬間には無数の腕を生やし、その腕を触手のように素早く伸ばして、獲物を求める獣の如く二人に襲い掛かる。


「ああああぁぁあ!!」

「いやぁぁぁぁぁっ!!」


 腕に身体を掴まれ、そのまま軽々と持ち上げられ同時に悲鳴を上げる二人。

 ドロドロの液体に包まれた腕に感情などはすでになく、加減のない力を込めて二人を握り潰そうと襲い掛かった。


 呼吸もままならないほどの苦しみ。叫ぶ声も徐々に掠れ、意識が遠のいていく。巨大な怪異と化したリリスに太刀打ちする暇もなかった。


 二人の窮地に歯を食いしばって見つめる蓮、リリスは憎しみを絶やすことなく本当の悪鬼へと変異してしまった。

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