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14少女漂流記  作者: shiori


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第十章「平和な世界のために」5

 説明が終わると、静かに聞いていた静枝が手を挙げた。

 皆の視線が静枝へと注がれるとそのまま口を開いた。


「先生、今度は私も戦います。悪事を何度も働くリリスを放置してはおけません。それに茜さんを守りたいというみんなの気持ち。大切にしたいから」


 表情は硬く不感情に見えるが、本当の静枝はとても前向きに手助けしたい意思があることを私は知っている。

 だから、強い霊感を持つ静枝であるが、どれだけ戦力になるかはまだ分からないが、参加してもらうことにした。


 茜はリリスに敗れてしまった自分の不甲斐なさを悔いていたが、周りは茜一人に任せ戦わせてしまい傷つく結果になったことを悔いていた。


 普通の少女であれば、トラウマとなって一生拭い去ることの出来ないほどの痛みと苦しみを、それを受けてもなお、茜は屈することなく立ち上がった。


 協力し合うことで強敵であるリリスを打ち破る。

 茜の正義の心に呼応してチームワークはより一層高まった。

 それぞれの想いが一つなり、リリスの決戦に向かうことになった。


 状況を迅速に確認するため、察知能力の高いメンバーが先行して市バスの停留所へと向かった。


 麻里江を先導係とし、静枝と可憐が後からついていった。


 可憐以外は後方支援組だ。自分達だけで戦闘に参加せず、状況を見極めるため向かってもらった。


 千尋が姉の麻里江を見送って自室へと戻っていき、残った私とひなつと雨音、そして茜。茜の治療がどれだけ進み、満足に戦えるのか、その心配を察したのか、雨音が先に口を開いた。


「先生、みんなの前では言いづらかったですが、私は無理して茜に戦ってほしくないです」


「雨音……それは大丈夫だってさっきも言ったじゃない」


 昨晩からずっと一緒にいるほどに仲の良い二人だ。雨音の気持ちは痛いほど分かる。それに茜がリリスとの決着を自分の手で成し遂げたい意思も、手に取るように私にはわかった。



「分かっているわ……だから、今日で終わらせましょう」



 私は二人に向けてはっきりとそう告げた。


 二人の視線が神妙な形で私の方に向けられる。


 こんな不安に怯える日々が長く続いてはならない、それが二人にも良く伝わったようだった。

 言葉にして分かる、それがどれだけ難しいことか。


 だが、平和な世界のために、私も茜たちの気持ちに応えるために覚悟を決めた。


「茜、手を出して」


 薄く紅い光に包まれた茜の瞳を見つめ私が言うと、茜は訳も分からないまま手を差し出した。


 私は朝の陽射しが徐々に強まってくるのを感じながら、首に掛けたネックレスを外し、茜の手のひらに優しく渡した。


「これを茜に託すわ。きっとあなたが持つにふさわしい力だから」


 いつも身に着けていたグリーントルマリンのネックレス。

 

「これって、先生がいつも付けてた」

 

 驚いた様子の茜へ私は首に掛けるよう言った。

 朝日を浴びて綺麗に光り輝く緑色の秘宝。ネックレスチェーンを首に掛け、茜の胸の辺りでグリーントルマリンの宝石が鮮明な輝きを放っている。


「綺麗……」


 私が普段から身に着けていたとはいえ、服の中に隠していたからここまで直接見ることはなかったのだろう、大人が身に着けるような宝石の美しさに茜と雨音は感嘆の声を漏らした。


「一番のお守りになるはずだから。お願いね。

 試作品だから一度しか発動できないけど。切り札になるはずよ」


 ただ美しいだけの宝石ではない。気高き魔法戦士として戦う茜が持つからこそ発動させることが出来る、切り札としても作用する。

 それを私は茜に忘れないよう言い聞かせるように説明した。


「嬉しい……勇気が湧いてきます」


 説明の後で、その意味を改めて知った茜は乙女らしく眩しい笑顔を浮かべて私が託したプレゼントを喜んでくれた。



 ―――それでは、先生、行ってまいります。



 茜が左手でギュッと宝石を握り、右手で雨音と手を繋いで、石段を降りる前に一言私に言った。


 また、罪深いくらいに勇気を分け与えてしまったかもしれない。

 でも、私は彼女たちを信じる道を選んだ。だから、後悔はなかった。


 私が小さく手を振ると、茜と雨音は手を繋いだまま、戦場へと向かって石段を駆け下りて行った。


「先生を皆さんが信じる理由がよく分かりました。これが導き手の成せる(わざ)なのですね」


 石段を降りていく二人が見えなくなった後で、ひなつが尊敬の眼差しを私に向けながら言った。

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