第十章「平和な世界のために」1
稗田黒江の指揮する魔法使いがリリスと激戦を繰り広げたことで事態は次の段階へと移行した。
俺は独自で入手した情報をもとにリリスの行動を予測し次なる作戦を立案した。
「”擬態したリリス”が”男”の自宅に入るのを確認した。明朝、予定通り作戦を開始する」
俺、守代蓮は警察に頼るなどという面倒な手続きはしない。短文でグループチャットにメッセージを送る。すぐにアンナマリーから反応が返ってきた。
「いよいよだね、待ちくたびれたよ」
「マリーちゃんはすっかりやる気満々だね、作戦の第一段階は任せたよ。あたしは先生と現場で待機してるから」
「ラジャー! そっちもちゃんとイチャイチャせずに準備しておきなよ」
俺の心配をよそに緊張感の不足した軽快なやり取りが続けられ、アンナマリーと奈月はレスを返しあっていた。
珍しいことではない、大体いつもこんなやり取りが行われている。
ただ一つ違うことと言えば、今回は一つでも連携を見失えば生死に関わるほどの大きな敵であるということだ。
稗田黒江が苦戦を強いられている以上、油断は出来ない。
二人の実力を信頼してるが、本当のところは稗田黒江の指揮する少女たちの力を加え、可能な限りの連携を発揮したいところだ。
それが出来ないのは、主にあちら側の魔法使いを敵対視しているアンナマリーのせいである。
元々、アンナマリーは英国の超能力研究研究機関でサイキッカーとして育成教育をされてきた経緯がある。厳しい訓練の日々は便利な魔法を操るファンタジー的な価値観を否定するきっかけにもなり、最初は魔法使いという呼び名にも嫌悪感を示した。
そうしたファンタジーな見方をリアリストな彼女のプライドが許さない以上、協力体制を取るのは難しい。途中からあちら側も参戦することになれば、リリスとの決戦は出たとこ勝負の未知数となる算段が大きいだろう。
俺としては、結果的に二人が傷つくことなくリリスを始末できればいい。リリスの行ってきた胸糞の悪い犯罪の数々は目に余りものだ。早く排除しなければならないと感じているのは、全員が一致していた。




