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14少女漂流記  作者: shiori


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第九章「ゴーストサイドセンセーション」6

「先生……茜さんが見つかりました。今から学園に来てもらえますか?」


 夜八時を回ろうとする頃、ひなつから連絡が入った。

 静枝のケータイから通話がかかってきたので何事かと思ったが、ひなつは私の連絡先を知らないから静枝にケータイを借りることで連絡してくれたようだった。つまりは二人は今一緒にいるということだ。


 私はひなつと話し通話を切ると、急いで雨音と麻里江、それに可憐の三人に連絡した。

 三人より先に学園に着くと予想通り、ひなつと静枝が待ってくれていた。


「茜が見つかったって本当なの?」


 いつも通り無表情の静枝に対して手を振って嬉しそうに出迎える静枝。そんな二人に私は早速待っていられず聞いた。


「はい、私の夢は現実ですから。茜さんが皆さんの助けを信じて諦めないで耐え続ける姿が見えました。大丈夫です、まだ茜さんは生きていますよ」


 どこにそんなことを信じる根拠があるのかは分からないが、不思議なことに静枝も特にひなつの言葉を疑っている様子はなかった。


「信用していいの……?」


 すがるような気持ちで私が聞くとひなつは優しい微笑みを送りゆっくりと頷いた。


「ひなつは嘘を付いて意地悪を言う子じゃありません、先生、信じましょう」


 自分は都合のいいことを信じようとしている、その罪悪感を静枝は自然なやり取りで取り払ってくれた。

  

 それから間もなく、雨音と麻里江、それに可憐も遅れてやってきて、華やかなメンバーが揃った。

 ここでお茶会でもしようものならそれは楽しい時間になるだろうが、今はそれどころではなかった。


「それじゃあ全員集まったから案内してくれる?」


 私が全員の顔色を確認し、覚悟のほどを確かめるとひなつに聞いた。


「はい。どうぞお静かに付いてきてください」


 この中で最も小柄なひなつが、私たちを案内してくれる。

 一体どこに茜がいるというのか。あちこちを探し回り、もう諦めかけていた状況では、このひなつに頼るほか打つ手がないのは明らかだった。


 ずっと捜し歩いてきた麻里江と雨音も祈るような気持ちで疲れの色を隠せないまま付いてくる。

 可憐は戦力になれなかった自分を責めながら、それでも救いを求めるように付いてくる。

 

 誰もが茜の無事を願い、祈っていた。

 共に魔法戦士として戦いを繰り広げ、一緒に部活で充実した日々を送って来たことは決して忘れることが出来ない思い出だ。

 だからこそ、それぞれにとってこれからも茜が必要で、茜のいない世界など受け入れられるはずがなくて、これまでの茜との日々に感謝しているのだ。

 失って初めて気づく茜の存在の大きさ。想像するだけでは気づけないリアルな喪失感。


 私は教師として、何としても茜を取り戻さなければならない。

 この世界に一人しかいない、代わりなど存在しない茜のことを。


 ―――こちらです。そう言ってひなつが案内した場所は想像だにしない場所だった。


「本当にここにいるの?」


「私にはそう感じました。でも、それは夢で見た情景によるものが全てではありません。憶測も混じっています。

 夢で一番に強く感じた感覚は、視えた情景ではなく、とても近い場所に茜さんがいるという予感でしたから」


 預言者の告げるお告げのような曖昧な言葉ではなく、ひなつは丁寧に自分が感じたことを説明してくれる。案内してくれた場所は学園の敷地内にある誰もが知る教会だった。

 

 夢をヒントに居場所を突き詰める。それがオカルト染みて容易なことではないことは良く分かった。それでも、ここに案内することが出来たのは、みんなの願いを純粋に聞き届けようとするひなつの優しい心の成せた奇跡なのだろう。


「さぁ、中までは確かめていませんので、どうぞお入りになって早く助けてあげてください。

 本当に確証のない予知夢のようなものなので、茜さんが見つかるか分かりませんが」


 茜がこの教会にいる可能性があることを伝えようとするひなつ。他にこれ以上探す場所が見当たらない現状では、信じて進む以外に選択肢はなかった。


「ここからは雨音と麻里江と私だけで行くわ、残りはここで待っていてちょうだい。ごめんなさい、これだけは譲ることが出来ないから堪えてちょうだい」


 もしも、茜が無事な姿でなかったら……考えたくないことだが、その可能性があるだけに、私はクラスメイトであり、長い付き合いのある雨音と麻里江だけを同行させることに決めた。


「分かりました……ここで、無事を祈っています」


 ずっと黙っていた可憐が辛うじて声を出した。

 先の戦闘で力になれなかったことが未だに尾を引き、後悔の色が濃い可憐の表情は見ているだけで胸が苦しくなるほどのものだった。


 私は一縷(いちる)の望みに賭けて、麻里江と雨音を連れて目に前の大きな扉を音を立てないように慎重に開閉し、教会の中へと足を踏み入れた。

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