第九章「ゴーストサイドセンセーション」4
石壁と鉄格子で囲われた薄暗い牢屋の中へと乱暴に茜は放り込まれた。
リリスとの一騎打ちに敗戦し連れ去られてしまった茜、これから何が待ち受けるのか、茜はその恐ろしさを想像する余裕もないまま、牢の中に入れられてしまった。
「それじゃあ、敗者の貴方にとっておきのアトラクションを用意しておくから、ここで惨めに一人待っていなさい」
軽い調子で屈辱的な言葉を言い残し、リリスは笑みを浮かべたまま色気のある甘い香りを残して、茜を置き去りに去っていく。
薄暗い牢屋の中は快適には程遠い牢獄だった。
布団もトイレもなく、砂の地面だけしかない狭い牢屋の中に一人取り残される茜。みすぼらしくなったボロボロの戦闘衣装は、自分が頑張って丁寧に編んで作った衣装であり、それを着させられたまま放置されることは屈辱的仕打ちで、痛ましさの象徴のようであった。
「どこなの……ここは」
喉が渇き、乾いた声で茜は一人口を開いた。
早くみんなのところに戻らなければならない。しかし、茜はここまで意識を失っていたために今どこにいるのかすら分からなかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……身体が痛む……」
怪我の治療さえさせてもらえないまま放り込まれたことで、疲労と痛みで身体が休まることはなかった。
全身の痛みを必死に堪えながらなんとか意識を保ち続ける茜。だが、これから始まる恐ろしい拷問を茜はまだ知る由もないのだった。
再び牢屋へとやってきたリリス。宿敵を目の前に必死の抵抗を茜は見せるがリリスは簡単にその抵抗を押さえつけ、乱暴に両手両足を縛った。
両手を後ろで縛られ、足まで縛られた茜はうつ伏せのまま這うようにしか動けない姿となった。
「口は塞がないでおいてあげるわ、この地下で声を必死に上げたところで地上に届くことはないでしょうから。せいぜいいい声で泣き叫んでくれるといいわ」
悪霊の名に相応しい鬼畜さで挑発するリリス。声を上げれば相手を喜ばせるだけだと悟った茜は、地面に顎を付けたまま歯を食いしばって耐えることしか出来なかった。
「それじゃあ、仲間が来るのを願いながら絶望を味わいなさい。それが貴方にはお似合いよ」
これから始まる非情な拷問で茜が持つ諦めない強い心が折れて壊れていく姿に、リリスは期待する目を浮かべた。
それから間もなく、薄暗い牢の中にリリスにより食事が運ばれる。
危うく地面の砂が混じりそうなほどに底の浅い二つのアルミ皿にはミルクとチーズの添えられたパン、そしてミンチされた生肉が無造作に皿に乗せられていた。
「今の貴方は犬も同然なのよ、せいぜい食べなさい」
冷たい砂混じりの床で身体は汚れ、さらに過酷さを味わう茜はリリスの言葉にそっぽを向いた。するとリリスは細く長い固いブーツを履いた足で茜の顔やお腹を容赦なく蹴った。
身体をのけ反らしながらも必死に声を上げずに堪える茜、その姿を見てより気分を良くしたリリスはさらに何度も茜の身体を蹴り傷つけていく。
「強情なのね、いたぶり甲斐があって嬉しいわ。今日は言うことを聞くまで寝れないと思いなさい」
乱暴に暴力を振るい、無理やりに皿に顔を押し付けられ、食事をさせられる茜。だがこれは始まりでしかなかった。
リリスの言葉通り、ただ残酷なリリスの欲望を満たすがために、夜通し茜の拷問は続いた。それは勝者による無慈悲な蹂躙であり、敗者である茜は自我を失わないよう必死に耐え続けるしかない。
言葉にすることすらおぞましい拷問の数々で絶望が広がっていく。
あまりに残酷すぎる長い夜を、茜は眠ることさえ許されず続けられた。




