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14少女漂流記  作者: shiori


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第九章「ゴーストサイドセンセーション」3

 生まれ持って霊感の強かった静枝は元々、幽霊を引き寄せてしまうことが多く、それが一緒に暮らす家族にとって悩みのタネにもなっていたようだ。


 霊を信じない家族と霊を意図せず引き寄せてしまう静枝、必然的に家族との絆が離れていった過去を静枝は説明してくれた。


 ポルターガイストなどの心霊現象は原因が分かる静枝にとっては日常の一部でしかなかったが、科学的に証明しようのない、警察でも対処できない問題は家族を苦しめ追い詰めていった。

 そこまでいけば静枝の言葉など家族に届くはずもなく、一緒にいること自体が難しくなったという。

 

 霊感が強いことで睡眠障害であるナルコレプシーも発症して病院での長い入院生活も経験し、苦労の絶えない人生だったと明かされた。


 この屋敷にやってきたのは本当は数年前で最初は親戚と暮らしていたが、その親戚も想像以上の現実に耐えられず逃げてしまい、最終的に一人で暮らすことになってしまったそうだ。


 今は週に数回やってくるホームヘルパーのお世話になりながら、睡眠障害が落ち着いていたこともあり、凛翔学園に転校生としてやってきたというのが静枝の語った真相だった。


「複雑な事情ですいません。普通の人には説明をしても無駄だと思っていましたが、先生は私と同じ特殊な方と存じていますから、お話ししました。


 説明した通り私は霊を引き寄せてしまう体質にあります、だから成長した今となっては幽霊を恐れることもありません。


 もう、すっかり慣れてしまっているんです。


 だから、今は生きている人間よりも信頼関係が築けているくらいです。


 それは家族を含め、私と親しい間柄にあった人はみんな離れて行ってしまいましたから。

 不思議なことですよね……私だけどうしてこんな身体をしているんだろうって思います」


 静枝は悲壮感に満ちた憂いを帯びた表情で一つ一つ言葉を並べた。そのどれもが重く普通の人には経験しようのない、理解の難しい難題を含んでいた。


 幽霊を引き寄せてしまう……その特性がどれだけ大変であるか、ゴーストを敵視して生きてきた私にとって、それはあまりに鮮烈すぎる生活環境だった。



 ―――先生には私が生きているのが不思議に見えるかもしれませんね。でも、これが私の世界であり現実です。



 考えをまとめている間にも静枝の言葉が続けられる。私は心にナイフが突き刺さるような衝撃を覚えた。見透かされているのだ、この少女に、私がどれほどゴーストを憎み生きているのか。


「ゴーストのことを友達だとまでは言いません。でも、こうして私が生きていられるのは、幽霊たちが孤独な私に肩を寄せてくれるからなんです」


 そして悪い幽霊ばかりではないと話す静枝。未練を持って悪事を働き続け呪いをまき散らすのがゴーストの特性だけど、静枝の近くに寄り添う幽霊は、それとはまた違うのだ。


「この屋敷に最初に入った時から誰かに見られてる気配を強く感じたけど、それも途中からはなくなった。それは静枝が彼らに私を安全だと伝えてくれたから?」


「そうです、ここには大勢の身寄りのない幽霊が寄り添って私と共に暮らしていますから。彼らはとても寂しがり屋なんです、私が遊んであげるととても喜びます。生きている人間でありながら彼らが”視える”私だから彼らにしてあげることがたくさん実はあるんです。

 だからかもしれないですけど、ここでの暮らしが居心地良くて、彼らがなかなか成仏できないのは。

 ホーンテッドマンションみたいですよね、こんな洋館に沢山の幽霊がわんさか集っているなんて」


 自分の境遇を話しながらクスクス笑いまで浮かべる静枝に私は圧倒された。

 静枝にとっても落ち着ける環境がこの洋館なのだろう。

 人を寄せ付けることなく、このまま暮らしていく事がトラブルを招かずに済む一番の方法だと、それが浮気静枝の生きる姿なのだと。私は改めて思い至ったのだった。


 私が知っている悪鬼として人を呪い殺そうとするゴーストと静枝が知っている幽霊たちは根本的に違う。

 そんな思いすら湧き上がって、私は何とも言えない気持ちで乳成分の強いミルクティーを飲んだ。


 広い屋敷の一室で優雅なお茶会を開いているような状況に結果的としてなった今日の調査。


 しかし、そんな穏やかな時間が続く中、私は茜がリリスに連れ去られてしまったことを知った。


 屋敷に入る前にイヤホンを外してしまっていたままだったことを雨音からの通話で私は気づかされた。

 とても焦った様子で状況を説明してくれる雨音、私は最悪の事態を迎え、切迫する現状を思い知った。


「先生、どうしたんですか?」


 さすがに雨音と通話をする私の様子が気になった静枝が質問をする。

 心配になるのも当然と思えるほど、私は思いつめた表情をしていたようだ。


「ごめんなさい、茜が誘拐されたの」


 私は隠すことでもないと思い、そう静枝に言うと、沈んでいる暇もなく席を立った。


 ゆっくりここでお茶をしてはいられない、私は静枝に謝意を伝え、雨音たちと合流するため、本当に幽霊と女生徒が同居して暮らす屋敷を後にした。

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