第九章「ゴーストサイドセンセーション」1
茜たちがゴーストの気配を辿って山の中を歩いている頃、私は浮気静枝が暮らしている可能性の高いとある場所へと向かっていた。
このように曖昧な表現になってしまっているのには事情がある。
私は社会調査研究部へとやってきた浮気静枝の人物像について気がかりで調査を進めてきた。茜たち同様ゴーストが視える静枝だが、初対面の時にゴーストに脅える様子のないことが気がかりでならなかった。
その理由を探る為、調査を始め分かったことは、学園に登録された住居が無人であることだった。
これに胸騒ぎを覚えた私は知り合いの探偵に調査を依頼、現在住んでいる場所を探ってもらった。
張り込み調査などをしてもらい情報を受け取った私は「出来ればこれ以上踏み込まない方がいい」という忠告を受けながらも静枝が暮らしている場所へと向かったのだった。
情報に記載された住所によればこの辺りだと私が周りを見渡すと住宅街のど真ん中に大きな洋館を見つけた。
「本当にここに静枝が……?」
何度もスマホで場所を確認するが、ここ以外には考えられなかった。
信じられない気持ちで建物を見つめる。周りは普通の住宅が立ち並んでいるにも関わらず、日本離れした景観が広がっていた。
広い敷地を三m近い柵が侵入者を拒むように覆い、敷地内には木々まで生い茂っている。
そして、正面扉の奥には立派な洋館がそびえ立っていて、まるでドラキュラの住む館のような異次元な光景だった。
すっかり月が昇り夜になっているだけに異様な雰囲気に包まれた洋館は、そのいかにも何かが出そうな恐ろしさで人を寄せ付けないのが当然に思えた。
「確かに、ここに住んでいるとなると、関わり合いを持つこと自体が危険と思うのが普通かしら……」
果たしてどんな生活をしているのか考えれば妄想は尽きないが、考えたところで答えが出るものではないだろう。
私は雷でも落ちようものなら逃げ帰るのが先決と思いつつも、鉄の扉を開いた。
鍵は掛かっておらず、不用心に思ったがポストや呼び鈴もない、人が住んでいるかさえ全く分からない様相だった。
「何が待っているかは分からないけど、覚悟を決めていこうかしら」
この街に詳しくない私にはここがいつ建てられたのかも、どんな人物が住んでいたのかも分からない。
不法侵入で訴えられかねない状況だが、この時には既に何か私は幽霊の気配のようなものに引き寄せられてしまっていた。
洋館の入り口までやってくる、古びた様子にも見えない芸術品のように立派な建物に圧倒されてしまっている自分がいた。
ここまで上がり込んでしまった時点で罪の意識はある、鍵が閉まっていることを期待したが、洋館の扉はあっさりと開いてしまった。
鍵が閉まっていれば諦めて、一旦引き返すつもりでいた。表札やポストが見つからない時点で人が住んでいると考えること自体が有り得ないことなのだ。
私は好奇心に浸食されたような魔が差した感覚で、屋敷の中におそるおそる足を踏み入れていく。
身の安全の保障などない。考えたくもないことだが、人が住んでいないとすれば幽霊屋敷に入り込んでいるようなものなのだ。焼きが回っていると言わざるおえなかった。




