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14少女漂流記  作者: shiori


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第八章「試される代行者」6

 金曜日の夜、プレミアムフライデーなる喜ばしいお得な日のようだが、魔法使いにとってはそんなことに浮かれている暇などない。

 茜たちは香ばしいゴーストの気配を発見し、日が沈み長い夜を迎えてしまっているにもかかわらず現地へと向かっていた。


 私の方は気になる霊気を感じたので、それを追っていて茜たちの下には今から向かえそうになかった。仕方なく私は耳にイヤホンを付け、戦況だけは何となくでも把握できるように努めることにした。



「こんなところに発生するなんて、薄気味悪いなぁ……」


 人里離れた山の中を茜が先導して歩き、すぐ後ろに可憐が離れないようにくっ付いていた。


 ゴーストが発見されたのは可憐の鍛錬に三人揃って手伝っていたところだった。

 山の中は街からは少し離れていて人目を気にせず鍛錬をするのには打ってつけだが夜になると急に暗くなって雰囲気が本格的に恐ろしいものになる。


 視界が悪い中を懐中電灯を点灯させ、正面にかざしながら進み、魔力の消費を最小限に抑えて進行する。


「こんなところを歩いていたら、ゴーストを見つける前に野生動物に襲われるんじゃないですか?」


「確かに、この山々は熊は出ないそうだけど、野犬はいるみたいだから、安全は保障できないわね。後、ヘビに襲われたって話も聞いたことがあるなぁ」


「それを聞いたら一層帰りたくなりましたよ。ここでゴーストが出現しても人的被害はないでしょうから、早めに帰った方がいいんじゃないでしょうか…?」


「まぁ気配が近くにあるのは確かだから、それを確かめるだけは今日のうちにしとこう。放置してたら危険なゴーストかもしれないから」


 ゴーストへと変貌する霊体は人間に限らない。より本能的に行動する動物もゴーストとなり被害をもたらすことがある。こんなところまで人がなかなかやってくることがないとはいえ無視するには危険、油断はできないということだ。


「暗いし……湿気が高くて坂道は辛いし、早く帰りたいです……」


 根気強さのない可憐が泣きそうな声で訴えながら茜についていく。

 森林を抜け、開けた場所に出ると、先頭の茜が足を止めた。

 夜目を光らせ辺りの様子を見ると、倉庫代わりのコンテナがいくつも置かれ、別荘地帯のように立派なものではないが、小さな集落のようであった。

 だが、倉庫代わりに使っている人が大多数なことがあり、住居などはなく人が住んでいる気配はなかった。


 そうして様子を窺っていると、赤い目を光らせる野良犬が続々と姿を現した。

 

「あれは……ゴーストというより、操られてるように見えませんか?」


 気配の正体が目の前に現れた野良犬達に間違いなかったが、身体を失い”死んでいる”ようには見えなかった。


「確かに、使い魔にされてる……犬っ子達を従えてる親玉がいると考えた方が自然だね」


 威嚇を続けて、今にも襲い掛かってくる様子だったが、茜は先輩らしく冷静な態度に努めた、

 生きている野良犬達を操る敵、その正体は分からないが向かってくるなら、対峙しないわけにはいかなかった。


「可憐、無理はしなくていいからあたしから離れないで。最初は実践の雰囲気を確かめるだけでいいから」


 霊体を直接相手にするわけではないが、ゴーストとの初陣になる可憐に茜は言葉を掛けた。


「はい……私の武器がどれだけ通用するか、確かめさせてもらいます」


 焦りながらも自信を覗かせる可憐は両手にヨーヨーを装着した、これが可憐の選択した武器だった。


「ヨーヨーで戦うなんて、傘で戦う私以上に変わってると思うのよね」


 後ろから追いついてきた傘を手に持つ雨音が少し離れた場所から声を掛ける、隣には巫女装束の麻里江が控えていて、手にした弓矢を操り掃射する準備を既に完了させていた。


「来るわよ!!」


 リーダーシップを取る茜の言葉と共に、一気に臨戦態勢に突入し、それぞれが武器を構えると同時、黒光りする野良犬達が低い呻き声を上げながら突如として飛びかかってくる。

 口を開き、鋭い歯を見せながらいきなり三匹同時に飛びかかってくるのを茜は不可視の剣で受け止め、打ち払おうとする。

 全く怯む様子のない野良犬達は何度も飛びかかり、麻里江は危機感を感じ矢を飛ばし野良犬達に突き刺していく。


「くっ! これくらいの威力じゃ、退いてくれない……」


 矢が突き刺さりながらも全く怯む様子がなく無心で向かってくる野良犬。それは魔力が帯びているために肉体を通常より強化され、痛みすら感じる様子がないほど異変を起こしていた。


「こんなのって! 生き物をこんな風に操るなんて許さない!!」


 身体から血を流しながらも必死に向かってくる野良犬、飼い犬を持つ茜にとっては生物に対する冒涜であり到底許せる所業ではなかった。


 血塗れになりボロボロの身体になっても威嚇し、立ち上がろうとする野良犬、その姿は既にまともな生物の動きではなかった。



 ―――こっちの事を必死に嗅ぎまわって探しているようだから、せっかくパーティーを準備をして出迎えてあげたのに、喜んでくれないのね。



 月が背後に白く輝くコンテナの上、そこに忘れもしない人影の姿が浮かび上がり、茜たちを見下ろしていた。

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