第八章「試される代行者」4
次の日の昼休み、私は屋上まで来るよう生徒を呼びつけた。
呼んだのは可憐と茜たちの三人だ。
浮気静枝と望月麻里江の妹、千尋はあえて呼ばなかった。
私の心境としては極力、止むを得ない場合を除いてゴーストには関わって欲しくはなかった。
二人が”視える人”であることは把握していても、巻き込みたくない気持ちは変わらない。
茜たちも無理矢理には巻き込みたくないという気持ちを持っていて、部活動の最中はこの手の話題に触れない方針を続けてきた。部活は部活、それが茜たちにとっても良い息抜きになっていると言える。学生は学生らしく、そういう一面も彼女たちには大切なのだ。
もちろん、こんなやり方がいつまで続けられるのかは分からなかったが、とりあえず、私は可憐が魔法使いに覚醒したことを茜たちにも共有してもらうことにして、ひっそりと屋上に集まってもらうことにしたのだった。
屋上へと続く扉の鍵を開き、屋上へと出る。
暑さに堪える季節となり、涼しい風が届けられるのを期待するが、生暖かい風が届けられた。
校舎から見える景色は舞原市の全景を見渡すことが出来て実に綺麗だが、すっかり夏の訪れる実感させられる熱風のような生暖かい風は生気を奪い、障害物のない屋上には陽射しが差し込み目が眩むほどだった。
夏服の制服に身を包んだ四人の生徒が屋上に集まり、私はまた一つ彼女たちに余計な干渉していることに罪を覚えて口を開いた。
「ここに集まってもらったのは、学業とは無縁の話しをするためよ」
期末試験が迫る時期だけに私はそう切り出した。屋上は普段から鍵がかかっているから無関係な人が入ってくる心配もなくちょうどよかった。
「重要なことってことですよね……あたし達にとって」
この場に集まったメンバーを見れば予想は付く、茜は確認をするように発した言葉の後で息を呑んで次の言葉を待った。
「ええ、貴方達にとって重要なことよ」
私は可憐に視線を送った。もうこれからする話の内容を察した可憐が私の横に立った。心配しなくていい、私の方から茜たちには伝えるからと前もって伝えていた。
「立花さんが魔法使いに覚醒したわ。彼女の望んだことよ。
だから、立花さんが無茶をしないよう、三人にはしっかり見守って面倒を見ていってほしいの」
伝える言葉は決めていたのに、息が詰まりそうだった、
私が覚醒させたことは茜たちには秘密にしておく、そう決めたことが予想以上に堪えたようだった。
―――私も先輩たちと一緒に正義のために戦う決意をしました。守られるだけじゃない、守れる人になりたいから。どうか、まだ分からないことばかりですので、先輩方、ご教授お願いします。
私が隣にいるからだろう。可憐は緊張しながら大きくお辞儀をして茜たちに向かって言葉を紡いだ。
「そういうことだから、よろしくね」
私はこれ以上、空気を重たくしないように表情を柔らかくして言うと、生徒たちから距離を取って遠くから眺めながら煙草を吹かした。身体に悪いニコチンの味は少しだけ嫌な感情を落ち着かせてくれた。
可憐のそばには早速三人が駆け寄って、歓迎の声を上げていた。
「凄いよ! 新たな魔法戦士の誕生だね! 可憐もあたし達と同じ魔法戦士になれたなんて、アリスの祝福だね。頼りにしてるよ、大歓迎だよ!」
感情を爆発させて喜ぶ茜、早速自分の仲間認定をして魔法戦士チームの一員として歓迎している。可憐はその反応に驚きつつも、喜びをかみしめていた。
「嬉しいですけど、まだ魔法使いになったばかりですからね、あまり期待しないでくださいね、茜先輩」
「茜に捕まったら、なかなか帰してくれないわよ」
雨音は茜と一緒にするトレーニングが厳しく、始まるとなかなか解放されないことが経験上、身に染みてきた。だからすっかり茜の標的にされた可憐に同情しているのだった。
「おめでとう! これからは一緒に頑張ろう!」
麻里江は茜ほどはしゃぎ立てたりはしないが、仲間が増えたことにしみじみと喜びを噛み締めているようだった。麻里江は我慢強いと聞いている、茜との修行じみたトレーニングを苦にはしていないのだろう。
私の予測通り、茜たちは実に素直に可憐が仲間になったことを喜んだ。
リリスという強敵の出現が不安を募らせていたのも大きかったのだろう。
まだ戦力として未知数ではあっても、可憐の加入は朗報となり、茜たちにとって久々に実感することの出来た明るい材料となった。
「先輩方、歓迎してくれるのは嬉しいですけど、お手柔らかにお願いしますね。先輩方のように戦士として役に立てるかはまだ分かりませんから」
私にとっては心配事がさらに増えたようなものだが、この日から可憐が茜たちの仲間に加わり、日夜、魔法使いとしての基礎の修行が続けられることになった。




