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14少女漂流記  作者: shiori


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第六章「新たなる脅威」2

 今日は普段にない胸騒ぎがして、私も三人に同行して夜の見回りをすることになった。


「スクールバスの事件があったばかりだから。

 本当はしばらく巡回を中止してほしいところだけど、その提案は受け入れなさそうだから、今日は付き添いするわ」


 舞原市で発生した幼稚園児の乗ったスクールバス爆破事件によって街の様子は一変した。


 この日の朝早くに住宅街で起こった卑劣な犯行は乗車していた子どもたちに甚大な被害をもたらした。

 乗車していた園児、十四人の内、八人が死亡する事態はそれだけでとんでももないことだが、残り六人が意識不明の重体、又は重症の怪我を負っている。軽傷で済んだ園児はいなかった。さらに一人の職員が死亡、運転手も重傷を負っており、全国的な重大事件となっている。


 現在もまだ生と死を彷徨う子どもがいること、犯人が未だ特定されず、捕まっていないこともあり街には暗雲が立ち込めている。

 事件が発生した近辺には夜になってもなお警官が張り込みを続け、犯人を追うため専用の捜査チームが編成され、現在も懸命な捜査が続けられている。


 凶悪犯がこの街に今ものうのうと潜んでいる現状があるため、私は三人をそのまま今まで通りに巡回させるのには反対だった。


「先生、ずっと気になってることがあるんです。

 あたしたち以外にも魔法使いがこの街にいること。

 先生は気にならないんですか?」


 茜は自分たちの正義に誇りがあるからなのか、他の能力者のことを私が使っている魔法使いという名称で呼んだ。

 今の発言には茜なりに考えた自分たちは魔法戦士であり、他の能力者は魔法使いとして見ているということなのだろう。


「それは分かるけど、その魔法使いがゴースト退治をしているのなら、しばらく泳がせておいてもいいのではないかしら?

 下手に遭遇して、対立することになったらその方が厄介だわ」


 冷静に私は言葉を返した。すると今度は雨音が下を向きながら口を開いた。


「でも、その人に私たちのような正義があるかはまだ判断できないんじゃないですか?

 もしも……その人が同時に悪事にも手を出していたら……」


「悪事を手を出すほどに心が淀んでいたら、体の内側から霊に支配されるのではないのですか?」


 麻里江も言葉を続けた。それぞれ思うところがあったのだろう。

 分からないことがあれば不安になるし、答えを求めたくなる。

 人間として当然のことだった。


「そうね、どちらも現時点では根拠のない意見よ。この目で見なければ確かめようのないことだわ」


 私は三人が抱える不安を少しでも取り除こうと言葉を返した。

 実際、麻里江の見解にも雨音の見解にもその可能性はある。

 否定するだけの根拠も私は持ち合せてはいなかった。


「最悪なのは……スクールバスの事件を起こしたのが魔法使いか、それに近い能力者による犯行ってことかな?

 ファイアウォールで都合よく事件に関与した証拠だけを消すことまでできるかもしれないし、それだけ厄介な犯人だったら、警察じゃ捕まえられない……」


 最悪の想像を茜が重苦しく口にした。


「想像したくないことね……。

 スクールバスの事件に関しては、早く犯人が捕まることを願うばかりね。

 警察も捜査をしているから、私たちがどうこうするには危険が大きい」


「待っているだけというのは不安ですね……。

 こうして不安が広がればそれだけゴーストの発生を助けることになります」


 麻里江が心配するのも無理はなかった。

 ただでさえゴースト退治は手に余る攻防になる。

 これだけ社会不安が増大する原因が発生すればゴーストによる被害は拡大することだろう。

 自殺や行方不明、無気力症候群、ゴーストが関与する人的被害はとても無視できるものではないだけに、事態は深刻だった。


「先生……!!」

 

 麻里江の足が止まり、私の方を振り向いて大きな声を上げた。

 かなり焦った表情をしている、私よりも察知力が強い麻里江の声だけに緊張感が高まった。


「麻里江、見つけたのね?」


桂坂公園(かつらさかこうえん)の方角です、数は分かりませんが、今までにない魔力の波動を感じます」


 まだかなり桂坂公園までは距離がある。それでも麻里江が察知できたということは相当の規模のゴーストが出現したということだ。


「罠じゃないですよね……ゴーストと魔法使いを間違えて探知することはないと思いますが、あたし達を誘ってるなんてことないですよね?」

 

「何を言ってるの? 茜。ゴーストに人間のような知能はないのよ。

 これまでだってそうだった、ただ、数が多いだけよ、冷静になって」

 

 不安がる茜へ雨音はいつもは見せないような強い口調で言った。

 私は可能性として一つだけ心当たりはあったが、今さらに不安を煽るようなことは危険だと口をつぐんだ。


「とりあえず、公園まで向かいましょう。民間人に被害が発生してからでは遅いでしょう?」


 ここで立ち止まっていても不安が広がるばかりで何も変わらない、そう感じ取った私は三人に向かって言った。


「先生……そうですよね、こうしていても仕方ないです。

 先生が今日は付いていますから、行きましょう。困っている人がいるかもしれないんです、怯えている場合じゃない」


 気持ちを切り替え、人助けに闘志を燃やした茜が先頭に立ち再び公園の方角に向け駆け出した。


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