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14少女漂流記  作者: shiori


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Tips2「霧島雨音」

 私の名前は霧島雨音(きりしまあまね)と言います。友達からは雨音ちゃんと呼ばれています。

 親友の茜と麻里江に比べれば地味で目立たない私だけど、社会調査研究部では部長を務めています。


 茜からは面倒見が良くて部長にぴったりだと言いますが、私はあまり人前に出て目立つのは苦手なので、ちょっと複雑な気持ちです。


 就活の時には自己アピールというものをしなければならないそうですが、そういう自分を売り込むというのが大の苦手です。これは分かってもらえる人には分かってもらえるんじゃないかなと思います。


 それと、授業中は寝てばかりいる茜にノートを貸してあげていますが、茜はもう少しリソースの割き方を考えた方がいいんじゃないかな? と親友ながら心配してしちゃったりします。


 ゴースト退治は私たちにしかできない立派なことだし、スポーツ万能で運動部にも顔を出すのはストイックで凄いことだから私には真似できないことだけど、もうちょっと勉強も真面目に取り組む方が、記憶力アップとかにいいんじゃないかな? と将来を考えてお節介な心配もしてしまう今日この頃です。


 話がそれちゃった気がしますが、私がこんな風に面倒見が良いのは家族の影響が大きいです。

 

 私の実家は小さな文房具店を営んでいて、痴呆が進んでちょっと心配な祖母の手伝いをしています。祖母は特に最近の若い人の好みというのが分からないので、時折暇を見つけては私が仕入れを手伝ってあげています。


 母は日が沈む頃に仕事に出掛けていて、その後は私が二人の弟の面倒を見てあげないといけないです。


 九歳と十一歳の二人の弟は本当に育ち盛りのやんちゃな子で、私の言うこともなかなか聞いてくれないので、気付けば天然気味ののんびり屋だった私自身も心身ともに鍛えられている気がします。


 私としてはあまりキツイ表情を見せるところを他の人には見せたくないので、もうちょっと二人がしっかりしてくれたら、口調を強くしてしからずに済んでいいのだけど、それも欲張りなことかもしれませんね。一番頑張って家庭を支えるため働いているのはお母さんだから、私がしっかりして二人の面倒を見てあげないと! って思います。


 もう少しお母さんとお父さんのことについて話します。


 お母さんは元々、夜のお仕事をしていて、私は具体的にどんなことをしていたか詳しくは知らされていませんが、お酒の飲めるバーやキャバクラで働いていたそうです。若い頃はそれくらいしないと生活できなかったと聞いているので、お母さんはこれまでの人生、私が考えても及ばないくらい苦労をしてきたのだと思います。


 お父さんと結婚して子どもができたことで夜のお仕事を辞めて専業主婦になって家事に専念していたんだけど、お父さんが二年前、失踪してからまたお仕事を再開しなくちゃいけなくなって、家を空けている時間、私が二人の弟の面倒を見るようになったんです。


 そういう大変な家庭環境ではあるけど、私は色んなことを経験して自立できるきっかけにもなると思って今の状況を受け入れています。


 でも、お父さんのことを考えると今でも心が辛くなって、複雑な気持ちになります。


 一体どこへ行ってしまったのか、兆候(ちょうこう)もなく突然私たちを置いて行方不明になってしまったお父さん。


 もしかしたらお父さんの失踪にはゴーストが関係しているのかもしれない……そう思って、茜ちゃんに協力して一緒に魔法戦士をしていると、いつかお父さんと再会できるんじゃないか……何がお父さんに起きたのか分かる日が来るんじゃないか、そんな都合のいいことを期待して諦めきれない自分がいます。


 私は両親の仲が良かったのも知っています。仲良しだったから、私たち三人の子どもがこの世に生を受けたことも。

 まだお父さんが行方不明になる前、五人で一緒に動物園や遊園地に行ったこと、とても思い出に残っています。


 お母さんが……人間らしいことがやっとできたと、とても感極まった表情を浮かべていたのをまだ覚えています。


 だから、私は諦めきれないんです。


 まだ幼さの残る弟たちやお父さんを愛するお母さんのためにも、諦めたくないんです。


 いつか、お父さんに会える日を願っています。


 だから、弱音を吐かず、挫けることなく頑張るお母さんのためにも、私は家族には秘密にしながらこれからも魔法戦士として頑張っていくつもりです。



「おばあちゃん、今日はお客さんは来ましたか?」


 痴呆が進んだ後期高齢者の仲間入りをした祖母は耳も遠い。

 私は身体を近づけ、祖母の耳元でゆったりとした口調で話しかけた。

 そうすると、ぼんやりとしていた祖母が反応をしてこちらを見て返答をしました。


「雨音やぁ……そうさね、サインペンとそこの本が売れたかね……。後、雨音の仕入れたボールペンも嬉しそうに買っていったのぉ……」


 スワロフスキーのホログラムボールペンだろう、子どもが買うには割高だけど、可愛いから仕入れたボールペンが四本全部売り切れていた。

 最近は流行りの傾向を見て私がネットで調べて入荷しているものも増えてきた。

 そういうものが好評で売れてくれると素直に私も嬉しい。


「そっか、今日もお疲れ様」


 既に祖母の体調もあってお店を開けている時間は”きまぐれ”だ。

 私が店番をするときもあるけど、閉めている時間も長い。

 祖母も売り上げよりも街の人との交流が楽しみで営業を続けている。

 これまでの日常に寄り添いながら暮らす、祖母はそういう生き方になっているのだ。


 私は慣れた手つきで在庫の確認を手早く終えると、祖母が今日も元気であるのを確認したので、家事をするために、二階と三階にある自分たちの住まいへと戻っていった。


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