表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14少女漂流記  作者: shiori


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/266

第四章「花ざかりに祝福を」5

 寝れない可憐の悩み相談に耳を傾ける。話しによれば誰かに見られているような感覚がするところから始まり、夜な夜な逆さ女を見るようになったと怪談話のようなことまで可憐は話した。


 そうした心霊体験を経験するたび心臓が飛び出るんじゃないかと思うほど怖かったようで、今日ついにあまりの恐怖から我慢しきれなくなり家から飛び出してしまったのだという。


 可憐は看護師をしていた母を自殺で数年前に亡くしており、そのショックから精神的に不安定な状態が続いていたようだ。


 現在は帰宅するのが遅いという父親と二人暮らしとなり、その居心地の悪さも彼女の精神的不安に影響しているのかもしれない。


 家に帰っても一人ということが多く、繁華街のカラオケに行ったり、友達の家に遊びに行くことも多いそうで、精神的に苦労をしている状況がよく分かった。



 日曜日を挟んだ週明けになり、新入生向けのオリエンテーションが本格化し、部活の勧誘も開始され、体験入部も盛んにおこなわれる時期になった。


 桜吹雪が似合う制服姿の生徒たちが登校する中、私は職員用入口から乗用車で入り通勤していた。


 放課後、部室が随分騒がしいことになっていることに気が付いた。


「三人が入部希望ということで――」


 茜が部活の活動内容を集まった入部希望者三人に説明する中、部室の入り口で見ていた私に部長である雨音が駆け寄ってくれて、事情を説明してくれた。


 廃部の危機にあっただけに信じられないという表情で興奮を隠しきれない雨音。

 私は淡々とその様子を眺めていたが、彼女たちにとって喜ばしいことには変わりないだろう。


「それで、あの三人が入部希望者ってわけ……」


「そうなんです! 先日助けた二人と麻里江の妹の望月千尋(もちづきちひろ)さんです。浮気静枝さんは転校生の二年生みたいですけど、みんな初々しくて、よりどりみどりって感じですよね」


 屈託のない新鮮な笑顔を浮かべる雨音、私は釈然としない気持ちで浮足立っている部室の様子を眺めていた。


 詳しく話を聞くと麻里江の妹の千尋も神社で暮らしながら”視える人”であるようだ。この部活に入部してきた入部希望者三人が揃って霊感を持ち、”ゴーストが視える”のは偶然によるものではないと感じる。

 情勢はここから大きく変わり始める、そんな予感を感じさせられた。


 ここまでの経緯を雨音が説明してくれた。

 

 可憐はあの日から三人に興味を持ってしまい、揃ってこの部活で活動しているのを知ったそうだ。

 そして、クラスメイトで麻里江の妹である望月千尋を誘って入部希望をした。

 浮気静枝に関しては偶然一緒になったということだが、彼女も”視える人”である以上、同じ仲間と一緒にいる方が情報共有もできて安心だと判断したのだろう。


 それぞれのことで分からないことはまだまだ多いが、これから一緒に過ごすことが増えていくのは確実であった。


 本当は入部自体を保留にして冷静に分析して判断したいところだったが、三人が喜ぶ姿に水を差すことはできず、私は三人の入部届を雨音から渋々受け取った。


「三人にはこれから負担がかかると思うけど、大丈夫なのね?」


 私は部長である雨音に改めて確認をとった。

 大きな変化がこれから巻き起こることになる。ゴーストと全力で向き合う茜にしても、妹が同じ部活に入ることになる麻里江にしても、そして責任ある立場でみんなをまとめる必要がある部長の雨音もこれから忙しくなるだろう。


「もちろんです、夜の巡回には私は付いていくだけで二人にほとんど任せっきりなので、茜と麻里江が三人を迎えることを望むのなら、私も精一杯その希望に応える次第です。

 先生にはご心配をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」


 丁寧にお辞儀までして雨音が私に笑顔を向ける。

 その真っすぐな乙女の視線を受けて、認めないわけにはいかなかった。


「そうね……私も、少し覚悟を決めようかしら。もう少し、普通の教師生活ができることを望んでいたけど」


「ふふふっ……忙しくなりますね」


 部員が倍増するという転機に雨音は実に上機嫌だ。この状況を自分も受け入れなければならない、私もそのことが段々と分かった。

 ただ、一つだけ大きな心配事があるとすれば、それは娘の凛音が巻き込まれるのではないかと、その一点であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ