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14少女漂流記  作者: shiori


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エピローグ~深海で眠る君へ~6

 意識が戻り、立ち眩みがしつつも平静を装い黙って立ちあがった奈月。

 マギカドライブを発動させ、魔力は消費している。

 だが、無事にやり遂げた達成感は確かに存在した。

 意識を取り戻し、立ち上がった奈月へ黒江は言葉を掛けた。


「終わったの……?」


 時間にすれば10分程度の短い時間だった。

 結果がどうなったのか、判断の付かない三人は奈月に視線を送る。

 やがて、奈月は自分の口で成功したことを話した。


「ゴーストは祓いました。沙耶さんは間もなく目覚めるでしょう」


 一瞬、切なげな表情を浮かべ、すぐに平静に戻る奈月。

 それだけを言い残して紙袋を掴むと、そのまま病室を出て行こうとする奈月。

 黒江は物悲しさを感じるその背中を見て引き留めた。


「どこに行くの? あなたは沙耶さんにとって恩人です。

 そばにいてあげるのがいいんじゃないかしら?」


 奈月の心情を正確に読み取ることは出来ないが、沙耶にとっては奈月は救世主であることから、感謝の言葉を直接伝える機会を大事にしたいと黒江は思った。

 しかし、奈月は下を向き、表情を見せることなく口を開いた。


「それは出来ません……あたしはあまりにも大きな罪を犯しました。

 これ以上、沙耶さんの傍にいることは出来ません。

 だから、皆さんが沙耶さんを迎えてあげてください。

 先生を愛し、死なせてしまったあたしに寄り添う権利なんてありませんから」


 淡々と言葉を返す奈月。それが必死に感情を堪えて言っていることは、この場にいる三人には容易に分かった。


「どうしてそんなことを言うの……?

 あれは全部厄災のせい、あなたの罪ではないわ」


 多くの死が蔓延した厄災の日々。

 大切な人との別れがあったとしても、それを自分のせいだと口にすることには抵抗があった。

 だがそれは、教え子を失い罪の意識に苛まれている黒江の深層心理とは違う、模範的な声掛けでしかなかった。


「先生はお優しいですね。ですが、あたしの罪は変わりません。

 あたし自身が自分を許せないのです。

 それに守代先生が亡くなったと知って沙耶さんが悲しむ姿を見てしまったら、余計に自責の念を感じてしまいますから。

 だから、一緒に見届けることの出来ないあたしの弱さを許してください。

 あたしはただ……守代先生を愛していたから沙耶さんを救ったんです。

 本当に沙耶さんを大事に想っているのは、こうして見舞いに来てくださっている皆さんの方です。

 それは、あたし自身が良く分かっています。

 だからごめんなさい、ここで皆さんとはさよならです」


 扉を開き、グッと歯を食いしばって出て行ってしまう奈月。

 黒江は自分が犯してきた罪を……失ってしまった命の大きさを思い出し、引き留める声を失った。


 生き残ってしまったこと自体を罪に感じてしまうほどに厄災は壮絶な悲劇の連続だった。

 

 感傷的にならざるおえない状況に誰もが俯いてしまう。

 

 だが、このままではいけないと、羽佐奈は率先して沙耶の傍に寄り添って、暗い表情をやめた。


「赤津羽佐奈さん……」


 長い眠りから覚め、瞳を開いた清水沙耶は枕元に座る、羽佐奈に向けて声を掛けた。

 

「帰って来てくれて、ありがとう……」


 優しく語り掛けるように言葉を紡ぐ羽佐奈。

 長い時を経て、呪いから解放された沙耶は徐々に乾いた表情から温かさを取り戻していく。


「まるで……夢みたいです。

 こんなに優しい目覚めを迎えられるなんて……」


 空腹感は感じるが、身体の不調は感じない優しい目覚めを迎えた沙耶。

 三人はベッドの横に集まり、目覚めの時を迎えた沙耶に優しく声を掛けた。


「そうね、諦めなければいつかは目覚めの朝が来る。

 守代先生は沙耶が目を覚ますための方法をずっと探していてくれたのよ」


 そう言葉にして、身体を起こした沙耶に羽佐奈は蓮の描いた遺作を手渡した。

 額縁に入った絵画を目にした沙耶は身体を震わせ、はっと息を呑むと、感情が溢れ出して涙を零した。

 この場に蓮がいないことの意味を、強い霊感を持つ沙耶は感じてしまい、さらに感情が湧き出てしまうのだった。


「……こんなに優しい世界を映し出すだなんて、蓮君らしくないですよ。


 誰がこんなに彼の事を変えてしまったんでしょう……。


 誰がこんなにも、蓮君に深い愛情と救いを注いでしまったのでしょう……。

 

 分かっています……分かっていますよ、これを蓮君が描いたというなら。


 彼の愛は本物だって分かっています。


 だからありがとう、蓮君。私は幸せ者です、こんなにも愛してくれているんですから」

 

 まだ目覚めたばかりのすすり泣く沙耶の声が病室に響く。

 乾いた声は徐々に感情を纏い、切ない想いを声にして荒げていく。

 目に溜まった涙が溢れ出して止まらない程に、沙耶は自分がどれだけ彼の事を愛していたかを思い出した。

 会いたい寂しさと、会えない哀しさと、愛してくれた喜びを涙に変えて、沙耶は三人の前で感情を吐き出し続けた。

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