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14少女漂流記  作者: shiori


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第四章「花ざかりに祝福を」3

 強い霊気に導かれやってきた場所は神社近くにある集合墓地であった。


 月が昇る夜が深まってくる時間に人がいるはずがないと思っていたが、そこには二人の少女が黒い影、ゴースト達に囲まれ窮地に陥っていた。


「やだぁぁ!!! こんなの無理!! 誰か助けてっ!! 離してよぉ!!」


 甲高い声で悲鳴を上げる少女、黒い影から伸びるゾンビのように血管の浮き出た土色の腕に掴まれ、身動きができない様子だった。


 もう一人の少女は茫然と立ち尽くしているのか、襲われている様子はないが、助けることもできず、逃げる気力もないようだ。


「先生っ!!」


 麻里江が私の方を向き、叫ぶ。その目は真剣そのもので、闘志に満ちていた。


「”あの二人には黒い影が視えているみたいね”」


 冷静に私は状況を判断し麻里江に告げた。


「はい、緊急事態につきファイアウォールを急速展開します!」


 迷いを断ち切って両手を広げる麻里江。

 目に見えない結界が墓地全体を覆うように張り巡らされる、彼女たちが最初にする戦闘準備だ。


 ―――今、助けに行くよっ!!


 茜の声が風に混じって響く。既にその手には”緋色に輝くファイアブランド”が握られていた。茜は最初から本気モードのようで魔力によって召喚した不可視の剣として隠そうともしなかった。


 平和への願いを込め、二人を救い出そうと駆け抜ける少女。


 マントを脱ぎ、薄着の衣装に恥ずかしさも見せず、真っすぐに敵へ向かっていく。

 

 茜は足の動きを肉眼で視認できないほどの高速で風を切り、電光石火の勢いで、今にも生気を吸い取ろうと襲い掛かるゴーストの腕を叩き切って見せた。


 怒りに身を任せているわけではない、茜は後悔しないために最善の動きを心掛けているのだろう。

 だから、茜は迷いなく戦場を一人、最前線で駆け抜ける。

 

「グォォオォォッォォォ!!!!」


 怒号のような断末魔が響き渡り、茜の手にするファイアブランドが一閃を繰り出すごとに、黒い影を虚空に消し去っていく。

 後方でその様子を見つめる雨音と麻里江の援護を受ける間もなく、茜はゴースト達を手慣れた様子で一掃した。


「えっ……」「……」


 息を呑むほどに圧倒していく茜の姿を、襲われかけていた二人はただそこに立ち尽くしたまま見守る。その姿は自分たちが救出されたことがまだ認識できていない様子で、驚くばかりでまともに声を上げることもできないほどだった。


 黒い影は姿を消し、脅威は去った。

 麻里江がファイアウォールを解き、雨音は茜のそばにすぐさま駆け寄った。

 

 ゴーストとの戦闘に慣れることが、まだ思春期の少女たちにとっていいことだとは思わないが、茜の手際のよさは想像以上で墓地の損壊は全くといっていいほどなかった。


「大丈夫? 茜?」

「問題ないって。この通り、衣装も破れてないから」


 まだ、不慣れで慣れない頃は無理をして戦っていたことがあったのだろう、雨音の表情は真剣かつ悲痛なもので、勝利の後でも茜のことを心配しているのがよく分かった。


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