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14少女漂流記  作者: shiori


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エピローグ~深海で眠る君へ~5

 羽佐奈を先頭にして四人は沙耶の眠る病室へと入った。

 

 窓際で白いカーテンが揺れている。


 無機質だが、波の音が聞こえる、穏やかな病室だった。


「遅くなってごめんなさい。待たせてしまったわね」


 羽佐奈が病室の奥にあるベッドに駆け寄って優しく声を掛ける。

 病室のベッドには変わらぬ姿で眠り続ける、沙耶の姿があった。

 この場所だけが、世界から取り残され、時が止まっているかのようだった。


 一通り挨拶が終わると、いよいよ沙耶を目覚めさせることになり、奈月以外は部屋の入口付近まで下がった。


「本当に出来るかどうか分かりません。ですが、先生のたっての願いですから。

 どうか信じてください、そして、この声に応えてください。

 あたしは沙耶さんを目覚めさせるために、ここまで生きてきたのですから」


 椅子に座り、そう語りかけると、沙耶は紙袋から四角い物を取り出して立ち上がった。


 そして、ゆっくりと丁寧に包装を剥がすと、額縁に入った絵画が姿を現した。


 奈月は感情を抑えながら、木製のキャンパス立てにその絵画を置いた。


 目の前に広がる平たい一枚のキャンパスには地獄から解放された白い羽を生やした美しい少女が、目を閉じて両手を大きく開いている。


 厄災中に描き上げた守代連の遺作。

 愛する沙耶のために描かれたその絵画を奈月は大切にこの場所まで送り届けた。


「先生の愛情を受け取ってくださいね。

 あたしはもう、返しきれないくらいに十分頂きましたから」


 奈月は精神を集中させ意識を研ぎ澄ませると、決意を固めてベッドへと恐る恐る近づき、沙耶の額に自分の額を突き合わせた。


「―――願いを……解き放ちます。

 

 マギカドライブ発動!! 精神干渉を開始します」


 胸元でぶら下がっているガーネットの宝石が燦然と輝きを放ち始める。

 願いを叶えるため、心を一つにする奈月。


 何をすれば沙耶を救い出せるのか、熟考したわけではない。

 感覚的に感じた通りにやろうと、奈月は最初から心に決めていた。

 

 奈月は瞳を閉じると、魔力を駆使して沙耶の精神世界へと入り込んで行く。

 自分の事を受け入れてくれるかは分からない。

 しかし、それ以外に方法は思い付かなかった。


「沙耶さん、目を覚ましてください……」


 宇宙のような広がりを見せる精神世界の中で奈月は優しく語り掛ける。


「皆さんが沙耶さんの帰りを待っています。


 だから、もういいんですよ。このあたしが除霊を行いますから」


「あなたは一体……沙耶ではないんですか?」


 精神世界で漂う沙耶が来賓者を存在に気付いてやって来る。

 沙耶は自分と瓜二つの外見をした奈月の姿に驚いているようだった。


「あたしは沙耶ではないです。あたしは沢城奈月、守代先生の生徒です」


 目を合わせ、自分をやるべきことを見失わないよう話しかける奈月。

 自分と瓜二つと感じつつも、その純真さを感じるきめ細かな美しさに嫉妬しそうになる感情を抑える。

 ずっと鏡で見てきた長い黒髪も、慎ましいサイズの胸も、ふわっとして柔らかい頬もクリっとした瞳も、薄ピンク色の唇も、全部が似ているのに微妙に違って見えた。


「そっか……あなたが私のいない間に蓮君のそばにいてくれたんですね。

 心配して損しちゃいました。ああ見えて、蓮君は寂しがり屋だから」


「そうですね……それを聞いたら、そんな気がしてきました」


 自分とは明らかに違う、二人の関係の中にある愛情をつぶさに感じる奈月。

 奈月の頭の中で一人キャンパスに向かう蓮の姿が思い浮かんだ。

 茜色に染まる黄昏時になっても、一人黙々とキャンパスに向かう姿。

 つい猫背になっていても、それを気にすることなく集中して筆を握る。

 その姿に自然と惹かれていた過去の自分。話しかけたい衝動に駆られた自分。

 だが、それは日常でありながら、孤独の象徴だった。

 

 奈月に親近感の湧いた沙耶は封印しているゴーストの下まで案内した。

 沙耶はゴーストのことを気性が荒く人の言葉が通じない番犬のようだと口にした。

 

 奈月の姿を見ると封印結界内で暴れ始めるゴースト。

 醜いその姿を目の当たりにした奈月はゴーストを祓うことに決めた。


「ショック療法でいきますので、少し身体が痛むかもしれません。 

 ゴーストを祓うためなので、ご了承ください」


「分かりました。私にはあなたほど戦いの心得がないのでお任せします」

 

 双剣を発現させた奈月はマギカドライブの力をフルに活用して、召喚器を破壊した時のようにゴーストを一閃して見せた。


 光が溢れ、ゴーストの断末魔が響き渡る。


「これは……本当に私のことを助けにきてくれたんですね」


 危険を顧みず助け出しに来てくれた奈月という少女。

 愛する蓮の願いを叶えるためとはいえ、ここまでしてくれる奈月の想いに沙耶は心から感謝した。


 やがて、静かになると沙耶は身体が自由に近づき軽くなっているのを実感した。


「それでは沙耶さん、先生からの伝言です。


 ”俺は沙耶の描く世界を愛しているから……長生きしてくれ”


 20年足らずの人生では物足りないはずです。これからも自由に……絵を描いてください。素晴らしい作品をたくさん生み出してください。それは、この世界に生きる人々に救いを与えることでしょう。


 だから……どうか悲しみに苦しまずに、強く生きてください」


 奈月はそう沙耶に向けて言葉を残すと、精神世界を抜け出し現実へと舞い戻った。


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