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14少女漂流記  作者: shiori


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Tips8「14番目の魔法使い、前田郁恵」

 忌まわしき厄災の始まりとなる舞原市全域を巻き込んだ巨大なファイアフォール。

 それを引き起こしたのは、”前田郁恵(まえだいくえ)”という一人の女性であった。

 これは彼女自身が望んだことではない悲劇の物語である。

 

 前田郁恵(まえだいくえ)、彼女は生まれながらにして全盲の視覚障がいを持った二十三歳の女性であった。


 細身な体格で身体は強い方ではないが、周りの人たちの手も借りながら充実した日々を送っていた。

 大学卒業後、保育士として就職を果たし、都内で働くこととなった。

 目が見えないながら自分で家事もこなす社会人で、明るく人懐っこい性格が特徴の既婚者だった。


 結婚した年上の男性も視覚障がいを持っており、モノクロームを主体とした画家として有名で展覧会にも展示している。

 大学生時代の頃に出会い、現在も存命している。


 日本の大学に入学以前、オーストラリア在住の頃から盲導犬を飼っていたが、大学生時代に交通事故に遭い重傷を負って離れ離れになる。そのショックから立ち直らせてくれたのが夫となる男性だった。


 このことがきっかけで仲を深め、同棲生活を経てゴールイン、晴れて二人は結婚することになった。


 仕事にプライベートと、幸せな日々を送っていた前田郁恵。


 厄災に巻き込まれる発端となった事件が起こったのは厄災の約一年前、クリスマスの時期の事だった。

 

 イギリスの超能力研究機関で育成されていたまだ成人を迎えていない二人の少年と一人の少女。

 元々、同郷の孤児だった三人は不幸なことに劣悪な環境で育てられていた。

 いつか自由になることを目標に掲げ、辛抱強く困難に耐え、組織の中で実力をつけてきた三人。


 実力を認められ、要人警護で日本に訪れた三人は任務中に脱走を図り、組織から抜け出して山奥の洋館で暮らし始めた。

 透視や未来予知の脳力に優れていた三人はギャンブルで儲けるなど、金銭には困ることはなかった。


 目立たないようひっそりとした暮らしを続け、調査の魔の手が離れてきた頃、三人の中で少女だけは一人、山奥の洋館から離れ、里子となって学生生活を始めた。


 念願叶って自由を手にした少女を応援する少年たちだったが、少女は日本の社会の中で暮らし身体に悪しき瘴気を溜め込み、やがて悪鬼へと成り果ててしまう。

 上位種のゴーストとなって制御不能に陥り、夜な夜な暴れ始めた少女は、憎しみから少女を襲い始める。

 霊体化を可能にしているため、警察の捜査では少女を捕まえることは出来ない。

 被害に遭い、魂を抜かれた少女を少年たちは洋館に連れだし証拠を隠滅、自分達の力で事件を解決させようと動き出すが、自我を失った少女の説得はそう上手く行かなかった。


 暴れ続ける上位種のゴースト、悲劇は何度も繰り返され、原因不明の誘拐事件が続き、街は暗雲立ち込める状況へと陥っていく。

 

 そして、完全に自我を失った上位種のゴーストによってデート中だった前田郁恵も魂を抜かれ、洋館へと連れて行かれてしまう。

 

 前田郁恵が連れて行かれる一部始終を目撃した大学生時代に片思いをしていた若き医師、坂倉井龍(さかくらいりゅう)は郁恵を助け出すため尾行を開始する。

 そして、洋館の中に閉じ込められていた郁恵を救い出し、一人夜の森を走り抜けようとするのだった。

 だが、森を抜ける前に上位種のゴーストに見つかってしまう。


 そこへ偶然にも清水沙耶が助けにやって来る。

 井龍の目では見えない上位種のゴーストの相手を沙耶に任せ、井龍は郁恵を抱えてその場から逃げ出すのだった。


 その後、沙耶が眠り病となって不治の病になる中、郁恵もまた取り戻した魂との再融合が上手くいかず、不治の病となってしまう。

 大学の頃から郁恵のことが好きだった井龍は郁恵を結婚相手の下に返さず、自らの力で治療を施そうとゴースト関連の症状に詳しいアリスプロジェクトのメンバーとなる。


 だが、アリスプロジェクトのメンバーとなっても郁恵を救い出すことが出来ないと分かると、井龍はプロトタイプアリスのデータを盗み出してしまう。

 そして、密かに活動をしていた反アリス派の手を借りて、郁恵を救い出す方法を探りながら、ゴーストや魔法使いに対抗可能な超能力を駆使できるホムンクルス、アリス量産化計画の研究を始めるのだった。


 舞原市内にある浮気静枝の洋館の地下施設を研究所として活用し始めた井龍はある日、隕石の落下を目撃する。

 

 魔女の力を持って生まれた偽りのアリスと共に隕石落下地点にやって来た井龍は壺の形をした不思議な願望器、悪魔の壺を発見する。


「これは……古びた古代の遺物のように見えるが、空から落ちてきたのに壊れていないのか」


「現在の地球文明では開発されていない、オーパーツのようです。

 アリスのデータの中で類似したものが存在します。

 魔力を行使できる者しか扱えない願望機と言われているものです」


「願望器……そうか、文字通り願いを叶える道具なら、もしかしたら郁恵を蘇られることも、夢物語ではなくなるのか……」


 偽りのアリスの説明により、興味を示した井龍は願望器を持ち帰ることにした。


 そして、アリスの助言を借りながらついに悪魔の壺を使い、メフィストフェレスの召喚に成功した井龍。

 召喚されたメフィストが高い知性を備えていることが分かり、行動を共にすることに決めた井龍はファウストと名乗ることにするのだった。


「マッドサイエンティストかもしれないが、俺はもはや医師ではなく科学者だからな。

 君がメフィストフェレスを名乗るなら、俺はファウストと名乗ることにしよう」


「ハハハハッ!! 面白い奴よ。

 博士の名を語るとは、まだこの世界に召喚されて慣れない身だ。

 我の同志として迎え入れよう」


 こうして悪しき協力関係を結ぶことになった二人。

 二人は協力者を集めながら独善的な欲望を満たすために動き始める。


 半人半霊(はんじんはんれい)の魔法使いの魂を蒐集し、悪魔召喚を続けることになるファウスト。

 メフィストフェレスはアリスのデータを検証してグレートリセットを計画。一方、ファウストはリリスから受け取った魔法使いの魂を活用して新たなる上位種のゴースト、サマエルとディラックを召喚。


 そして、郁恵の中にサマエルが取り込まれるとついに郁恵は半人半霊の魔法使いとなり息を吹き返すのだった。


 上位種のゴースト、サマエルによって長い眠りから蘇った郁恵。

 最初は意志を持たぬ人形だったが、徐々に心を開き始める。

 だが、自分の置かれている状況に気付き始めた郁恵はファウストを拒絶し始める。


 やがて、ファウストの正体に気付き、本当の恋人を思い出した郁恵は暴走を始める。


「坂倉さんならこんなことは止めてください!

 私を夫のところに帰してください!」


「俺は命の恩人だぞ!! 前田郁恵、何故俺を拒絶する!! 

 本当にお前のことを愛しているのは、この俺だ!! 

 どうしてあんな男のことばかり思い出す。

 あんな男の何がいいというのだ!!」


 ファウストは最愛の郁恵に拒絶されてしまうと、郁恵の自由を奪い、グレートリセットに加担をしていく。


 メフィストとファウスト、二人の計画により、サマエルに操られ最悪の魔法使いとなった郁恵は巨大なファイアウォールを展開させ、舞原市を深い霧に包み込んで行く。


 グレートリセットを目論むメフィストフェレスはこれに歓喜し、忌まわしき厄災がこうして始まるのだった。

 

 必要となる魔力の回収を続け、ファイアウォールを維持させようとするディラックとメフィスト。


 悪魔の壺には舞原市で犠牲となった人々の魂が供物として捧げられ、次なる儀式へと進み続ける。


 そして厄災最終日、蓮達が地下水道の奥にある、召喚器の下まで辿り着くと、郁恵は悪魔の壺の中に入れられ、巨大なゴーストへと変貌して世界を破壊しようと羽ばたいていくのだった。


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