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14少女漂流記  作者: shiori


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最終章「Morning glow」6

「はあああぁぁぁ!! くらええぇぇぇ!!」


 気を抜くことが出来ない中、覇気に充ちた闘争心で茜は怯むことなく巨大な敵に立ち向かっていく。


 雨音の生気が絶え、魔法使いの輝きを放つ茜を天敵と定めた巨人は拳を振り上げ、容赦なく振りかざす。

 対する茜はそれをギリギリの間合いで躱し、そのまま握り拳を作る大きな腕にファイアブランドを深々と突き刺し、力を込め真っすぐに肉を断っていく。


 マギカドライブの発動により飛躍的に機動力と攻撃力が増したことにより、巨人と触手の動きに同時に対応できるようになっていた。


 ダメージが効いているのか、耳障りな咆哮を上げる巨人。


 自由飛行の出来ない茜はクライミングアンカーを器用に扱い、地面に振り落とされることないよう巨人の攻撃を躱しながら、隙を付いてファイアブランドで斬り払い、傷をつけていく。


 

「……茜、ごめんなさい。また、あなたに頼って危険な目に遭わせしまっているわね」


 

 黒江は茜の方を向いて、戦闘の邪魔にならないよう距離を取って、祈るような気持ちでじっとその戦況を見つめる。


 激しくぶつかり合う両者。触手に拘束されても茜は必死に身体が引き裂かれそうになりながらも抵抗を繰り返し、切り刻んではまた巨人へと向かっていく。


 すでにマギカドライブの発動限界を超えつつあり、茜の身体の負荷の方が危険領域に達していた。


 何時倒れてもおかしくない状況下。それでも、茜は巨人から離れることなく諦めることもない。


 死力を尽くす茜だったが、力を行使しすぎた反動で徐々に意識が遠のき、鈍くなっていく身体は回避運動を遅らせてしまう。


 そして、巨人の慈悲なき一撃が繰り出され、茜は正面に迫った大きな拳を回避しきれず、まともに上半身に受けることになった。


「ぐっ…!! ああああぁぁぁ!!!」


 計り知れない衝撃を受けながら、肋骨の骨が砕けていく茜の身体は勢いよくビルのガラスを突き破り、室内へと投げ飛ばされた。



「もう限界を超えてる……このままじゃ茜が……。

 でも、今の私には何も打つ手がない」


 

 視界から見えなくなる茜の姿。

 助けに来たつもりだった黒江は巨人の恐ろしさに足がすでに竦んでいた。

 たとえ茜の下に駆け付けたとしても、今の自分に出来る手助けは何一つない。

 黒江は戦いを見つめながら迷い苦しみ、無力感に襲われた。



「あたしはここで倒れるわけにはいかない。

 

 最後の最後まで戦い抜く。諦めが悪いって言われたっていい。


 これはあたしの戦いなのよ!!」


 

 無数の生傷を負いながら、痛みを必死に堪え気力のみで再び立ち上がる茜。

 絶えることない闘志を燃やし、勝利を掴み取るために、再び自らの理性を投げ捨てて、茜は内から湧き出る霊体に身を任せた。それはさながら、闇の力に頼る行為に似ていた。


 霊体に制御の移った茜の身体は痛覚を遮断され、たとえ骨が折れていたとしても強引に力を開放していく。


 人間的な理性を失い、獣と化してビルを飛び出して、巨人に一気に迫りファイアブランドを振るう。ボロボロの身体でありながら、リミッターを外した茜の身体は常人では考えられない俊敏さで巨人の身体を切り刻んでいく。


 だが、それでも地獄の壺から生まれた巨人の魔力は膨大で、攻撃を受けると激情に任せて口を開き、再び魔術砲撃を放って街を焼いていく。


 茜を標的にしながら、巻き込まれるように倒壊していく建物。 

 紅蓮の炎に焼かれ、地獄絵図と成り果ててしまった住宅街。

 ダメージは与えられても、巨人の怒りを買ってしまった分、攻撃は激しさを増し、さらに街の被害は大きくなってしまっていた。


 もはや声の届かない、バーサーカーとなった茜は巨人の拳をまともに受けても平然と痛がる様子もなく不自然な姿勢で立ち上がり、血をだらだらと流しながら緋色の輝きを放ち巨人の身体へと向かっていく。


 限界を超えて命を燃やし続ける茜の姿を見つめ、その鼓動が小さくなり、消えていく感覚を黒江は感じ取った。


「もう止まって!! 目を覚まして!! 茜っ!! 先生の声を聞いて!!」


 黒江の必死の叫びも届かない、ただ命が尽きるまで、巨人が倒れるその時まで狂乱に導かれ茜は向かっていく。


「ああああああぁぁぁあ!!! がああぁぁぁあぁ!!!」


 真っ赤な光を放つ瞳を見開き、獣のような咆哮を上げ、茜の身体が真っ赤な炎に包まれる。

 巨人に打ち勝つための力を求めて、茜の身体は霊体に蝕まれ、霊体の望むまま強制的に力を開放されていく。


 火の玉のように姿を変えた茜の肉体はビルの屋上から飛び降り、ファイアブランドを巨人の胸に突き刺し、そのまま力を使い果たして地上へと消えて行った。


 黒江は瓦礫のせいで茜の姿が見えなくなっても、息を呑んで呆然とその姿を眺める。

 

 衝撃的な光景を目の当たりにしたことで、音は聞こえなくなってしまった。


 だが、黒江の目にはスローモーションとなって巨人の身体が姿勢を崩し、地面に倒れていく姿が見えた。


 茜は自らの使命を貫きついに巨人を討伐した。それを確信した黒江は正気に戻り、慌てて茜の下に急いだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 巨人討伐成功!冷や冷やしましたが、見事です!!
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