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14少女漂流記  作者: shiori


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最終章「Morning glow」5

 一方、茜は巨人の意識を逸らしてくれている間に背後へと回り込んで行く。

 微量の魔力を発現させ、素早い速度で背後に回り込んだ茜は手頃な高さのビルを見つけると屋上まで駆け上がり、ついに標的である天使の輪を付ける頭部のすぐそばまで辿り着いた。


「随分不細工な顔をして覚悟しなさい」


 茜は腰を落として接近を果たすと、気付かれない程度に小声で恨み節を口にする。天使とは程遠い能面な大仏のような顔をした巨人。ここまでは作戦通りだった。


(ゴーストはあたしがこの手で倒す。

 どこまでやれるかは分からないけど、やるしかない)


 死角に入り息を潜め、砲撃が止んでいる間に襲い掛かろうと構える。

 地上に落下すれば無事では済まない高さの中、茜は決死の覚悟を決めると、全身に流れる魔力を集中させ、灼熱のファイアブランドを発現させた。


「先生、あたしに力を貸してください。あたしに出来ることをやり遂げたいから」


 薄い霧が立ち込め、シンシンと粉雪が降り始める中、凍えるような寒さも感じないほど集中力を研ぎ澄ました茜は、コートを脱ぎ捨て巨人の肩へと向かって飛びかかった。


 片足を巨人の肩に乗せながら勢いをつけて斬撃を解き放つ茜。

 首に向かって真っ赤な紅蓮の炎が巻き起こり、ファイアブランドで叩き切らんと振りかぶるが、寸前のところで巨人を覆う黒い影から触手が次々に放たれ一斉に襲い掛かる。


 茜の身体を捕獲しようと触手の大群が迫り、不意打ちを食らった茜は驚くが、咄嗟の判断で巨人の首ではなく接近する触手目掛けて一太刀させる。


 だが、一閃を放っても触手の魔の手は途切れることなく迫って来る。

 茜は息つく間もなくクライミングアンカーを巨人の肩に差し込むと器用に魔力を行使させ、ビルの屋上まで移動し、接近してくる触手を躱した。


 アンカーを差し込んだ茜は再びファイアブランドに魔力を集中させ、迫る触手を燃え盛る剣で薙ぎ払い、隙を狙って巨人の身体に傷を入れていく。


「なかなか深手を与えられない……雨音が砲撃を防いでくれているのに!!」


 群れを成して襲ってくる触手に邪魔をされ、定めた狙い通り攻撃できない茜は、たまらず苛立ちを覚えた。


 触手を繰り出してくる黒い影は明らかに意志を持って茜を捕捉している。

 地上を更地へと変える魔術砲撃。それに加えて攻撃と防御の役割を果たす黒い影。それが一体となって巨大なゴーストはグレートリセットを果たすため侵攻を続けているようだった。


 破壊を尽くすための悪魔と化した巨人には、もはや魔法使いとして覚醒を果たし蘇った前田郁恵の意思はない。


 霊体に憑りつかれ身体は眠ったまま完全に動かすことのできない郁恵。

 

 巨人となった姿で依然として舞原市を巨大なファイアウォールで包み込み、人の多く潜む集落を優先して殲滅を続ける破壊者と成り果てていた。


 その上、半霊半人の魔法使いを脅威であると認識すると、容赦なく標的を変える行動原理は憑りついている霊体が上位種のゴーストであることの証明であった。


 激しい攻防に気を取られて、雨音の状況すら確認できない状況となった茜は早く雨音を楽にさせてあげるために、起死回生のマギカドライブを発動させることに決めた。



 接近戦を仕掛ける茜のため、街を守るため、何度も砲撃を受け止めていた雨音の身体はすでに限界を遥かに超えていた。


 高熱で全身からは湯気が立ち込め皮膚は爛れ、魔法戦士の衣装は焼かれ原形が分からないほどに溶けてしまっている。

 

 それでも、気力と想いの強さだけで立ち続ける雨音。


 ブルーサファイアの輝きはほとんど失われ、雨音は口を開き荒く呼吸を続けながら、ボロボロになった傘を握り、両手を前にして次弾に備えていた。



「あぐふぅ…はぁ……はぁ……はぁ……まだ、終わらないの……。


 それはそうか……私、悪い子だから、簡単には許してもらえないよね。


 分かってるよ。どんなに苦しくても、どんなに痛くたって最後までやり遂げるよ。


 麻里江……見ていてくれるよね? 私のこと、見てくれてるよね……?」



 全身の痛みに耐え、勇気を振り絞ると、自然と涙が零れた。

 

 顔を上げることが出来ず、地面を向いていたせいで涙がコンクリートにぽとりぽとりと落ちていく。それに哀愁を抱いて眺めてしまうと、余計に涙が止まらなくなった。



「そっか……最期は一人なんだ。


 早く会いたいなぁ……麻里江にも千尋にも可憐にも。


 ちゃんと迎えてくれるよね、頑張ったねって褒めてくれるよね。


 私……最後はしっかり茜の進む道を舗装してあげられたから。


 悔いなんてあるわけないよ。


 太一、暘二……お父さん、お母さんごめんなさい。おばあちゃんの面倒、もう看れなくなっちゃった。


 許してね、私……いっぱい頑張ったから」



 目の前に迫った巨人の口が開かれ、光が溢れる。


 顔を上げなくても伝わって来る熱で死を迎える予感を雨音は分かっていた。



 ―――さよなら、茜、後をよろしくね。



 その最後の言葉を発した直後、雨音の身体は光の中に包み込まれて見えなくなった。


 灼熱の光に焼かれ、一瞬にして物言わぬ焼け焦げた肉体となった雨音。凛翔学園を出て巨人に向かって走っていた黒江はようやくこの場に辿り着き、遠目から一部始終を目撃した。



「そんな……雨音が街を守ってくれていたの……」


 

 茜の心配をしながら、ここまで駆け出してきた黒江は衝撃を受けた。

 入院中で治療を受けていたはずの雨音が、目の前で焼け焦げた衣装を纏い、真っ黒になって倒れている。

 受け入れられない残酷な現実を前に、何度も閃光が走るのを見ていた黒江は茫然と立ち尽くしてしまった。


 そして、雨音の死をまだ知らない茜はマギカドライブの輝きを放ち目の前の巨人に向けて、ただひたすらに命を燃やし、必死に立ち向かっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雨音の死は呆然としました……人が亡くなるのは辛くて悲しいです…… けど、戦いの行方はどうなるのか気になります!
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