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14少女漂流記  作者: shiori


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最終章「Morning glow」3

 まだ雪が残る寒空の下、茜は白い息を吐きながら人通りのない道を走っていた。

 20m級の巨人の頭が徐々に近づいてきており、建物の隙間からその恐ろしい姿を覗かせる。


 再び口が開かれれば容赦なく光の刃で街は焼かれてしまう。

 茜は何としてもゴーストを狩る魔法使いの力を解き放ち、巨人の足を止めなければならなかった。


(稗田先生も守代先生も、赤津さん達もどうなったのか分からない。

 でも、今は無事であることを信じて、自分のやるべきことをやるしかない)


 自分達を守るため、この地獄を終わらせるために向かった頼れる大人たちの無事を信じながら、茜は闘志を燃やし、身体を熱くさせ、恐怖に打ち勝とうと気合を入れた。

 

 学園を出ててから走り続け、公園に差し掛かったところで、茜は見知った人物が待ち構えていることに気付いた。


「……雨音」


 寒空の下、ぽつんと一人そこに立つ、見間違いようのない雨音の姿を見つけると茜は立ち止まった。

 

「茜……どうせ茜の事だから、行くんでしょう? あの巨人を倒しに」


 恐ろしい巨体を揺らし歩く巨人が背後に映る中、マフラーを巻いた雨音が全てを察したように、動じる様子なく茜に話しかけた。

 息を切らしながら走って来た茜とは違い、微笑みかける雨音の表情は異様なほどに落ち着いていた。


「雨音……どうして来たの? 怖くないの? さっきの一撃を見たんでしょう? あれは見たことのない巨大なゴーストだよ……このままじゃ、街は焼かれてしまうのよ。ここは危ないんだよ」


 今向かおうとしている戦場に着けば命の保障はない。それを一番よく知る茜は雨音の迷いのない姿に動揺した。


「当然、分かっているわよ。でも、茜はみんなと正反対の行動を取ってる。

 生き残るために逃げるんじゃなくて、前に向かって立ち向かおうとしてる。

 それは、正義の味方を貫こうとする茜らしい行動だって思うよ。

 私はね、茜のパートナーだから来たんだよ。

 茜ってばすぐ無茶するんだから、私がちゃんとそばで見てあげないと」


 雨音の聖女のように清々しいまでに明るい表情は昨日までとは別人で、まるで生まれ変わって目の前に現れたかのようだった。


「雨音……」


 心にずしりと刺さる言葉を受け、茜は心を打たれた。

 雨音は完全に正義の心を取り戻し、目の前に悠然と立っていた。


「宝石が私の願いに応えてくれたの。だから、一緒に行こう?

 それが、魔法戦士として私達がやるべきことでしょう?」


 これまでの日々の延長線上にある、最終地点。

 最も困難を極める舞台へと、雨音は茜と一緒に昇ることを望んだ。


 洋服越しにも分かる、雨音の胸元で光り輝くブルーサファイアの宝石。2.5カラットのその燦然とした輝きは茜にも強い勇気を与えた。


「雨音……あたし、信じてたよ。雨音ならきっとあたしの隣に帰って来てくれるって」


 前に進むことだけを考え、意識しようとしなくても寂しさや不安、心細さはどうしようもなく茜に襲い掛かって来ていた。

 だが、この窮地に雨音と巡り合った茜は冷たくなっていた身体に暖かさが戻っていくのだった。


「うん、ありがとう。知ってるよ、こう見えて茜は寂しがり屋だから。

 今の私達なら出来るよ。だって、何も怖いものなんてないもの。私達の背中には、命を繋いでくれたみんなが寄り添ってくれてるんだから」


 もう二度と一緒には戦えないと、一度は離れていた心が再び繋がっていく。


 背中に仲間たちの姿を思い描きながら、もう二度と間違いを犯さないようにと意志を確かめる。


 美しい白とピンクのコントラストを映し出す、雪桜の咲く公園を前に、茜はついに力を取り戻した雨音と心を通じ合わせ、手を繋いだ。



 閃光が走り、人々が眠る住宅地を巨人が焼き払った瞬間、雨音は胸が締め付けられる思いだった。

 

 病室のベッドで一人過ごし、魔法戦士として戦線に復帰することを諦めていた自分。

 だが、襲い来るあまりに巨大な脅威を目にし、雨音は茜とどこまでも一緒にいたいと想った。

 彼女ならこんな暴挙を始めた化け物を許すことは出来ない。きっと、最後の一人になっても人々を守るため戦い抜こうとすると分かっていたから。


 そうして、茜の力になりたいと願った雨音の願いに応えてくれた宝石の力により、魔力を行使できる身体に戻った雨音は迷いを捨て去って病院を抜け出し、茜がきっとやってくると信じて公園で待っていたのだった。

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