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14少女漂流記  作者: shiori


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第三十章「天使の輪の巨人」6

「稗田先生……」


 車から降り立った黒江を見て、先に奈月が声を上げ駆け寄った。


「お二人はご無事でしたか……。

 それで、あの巨大な化け物は一体……」


 二人を心配そうに見つめる黒江だが、ゆっくりと山の中を歩く巨人の存在に触れずにはいられなかった。


「先生が奈月に託してくれた力も借り、召喚器の破壊には成功しましたが、最悪の事態を招く結果となりました」


 蓮は二人の間に入り簡単にこれまでのいきさつを黒江に伝えた。

 アンナマリーを戦死させてしまったことに言及すると、奈月は胸が苦しくなり、蓮の腕にしがみ付き瞳を潤ませて、必死に感情が放流しかけるのを堪えている様子だった。


「あの巨人が……魔法使いなんですか?」


 市街地を目指しているのか、霧の立ち込める山の中でゆっくりと巨体を動かし、一歩一歩山の中を歩いて行くかつて前田郁恵であった巨人。

 既に前田郁恵であった面影はなく、天使の輪っかを付けている20m級の巨人は人々に恐怖を与え、世界の終焉を告げる象徴のようであった。


「召喚器の力を借り、強大な魔力を手にした結果がこれのようです。

 天使の輪っかのようなものが付いている辺り、堕天使と見てもいいでしょう。


 恐らく前田郁恵の意識はありません。身体の中に取り込んでいる霊体に憑りつかれているか、そもそも意志などなく、ただ街を破壊するだけのプロトコルが組み込まれているかですかね……。


 こんな事態は有り得ないことなので、残念ですが何もかも推測の域を出ませんが」


 悪魔との強制的な契約の結果か、巨大なゴーストとなった前田郁恵に意志が存在するとは思えなかった。


「でも、先生は本当にあの魔法使いがこの舞原市のファイアウォールを展開したと考えているんですよね?」


 これまで、メフィストフェレスなどの強大な魔力を行使できる悪魔がファイアウォールを展開したと考えられてきたが、ここに来て、新たな可能性が生まれた。

 そのことは、全くの予想外ではないが、誰しもが驚きに値することだった。


「敵の言葉を信じるならだがな……しかし、ディラックには巨大なファイアウォールを展開するだけの、そこまでの魔力はないと考えている。奴は悪魔ではなく、召喚器を利用して、過去に生きた人間を模倣して受肉された姿のようだからな。

 これだけの魔力行使が出来るのは、今最も対処する必要がある、あの巨人だろう」 


 蓮は疲れた身体で頭を働かせ、黒江に出来る限りの事を話した。

 黒江は新情報の数々をゆっくりと嚙み砕く猶予はなかったが、今すべきことを理解して、すぐに行動に移そうと気持ちを切り替えた。


「分かりました……ここにいては作戦を考えることもままなりません。

 一度、凛翔学園に戻りましょう」


 ファントムを羽佐奈達に任せてここまでやってきた黒江は次なる目標が定まり、困難な情勢であるが迷う必要はなくなった。


「了解だ、奈月の魔力も底を付いている、どのみち俺たちで対処できる相手ではないからな」


 魔法使いの少女達ほど戦い向きではない黒江と満身創痍の状態の二人では、巨人の進行を止めることも、撃破して厄災を終わらせることも到底叶わない。


 それが確認できた三人は、車に乗り込み、一路凛翔学園へ戻ろうと決めた。


 だが、そこに予期せぬ相手が現れた。


「意外にしぶといようだな。このまま放置していては貴様らは厄介なのでな。ここで死んでもらおう」


 鳥肌が立つほどの恐怖を与える声で突然話し掛け、背後から姿を現したのはディラックだった。


 蓮と似たような服装と体格をしているディラックだが、金髪にピアスを開け、異様な耳の長さと西洋風の白い肌をしており、柄の悪いその人相はいかにも悪人面をしている。


 近寄りがたい、危険な男という印象を受けるディラックは、ここで三人を始末する腹積もりを決めているのだろう、先端に鋭い刃の付いた鎖鎌(くさりがま)を手にしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ファウストは死に、残るはディラック。果たしてどうなるのか心配になりました……
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