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14少女漂流記  作者: shiori


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第三十章「天使の輪の巨人」5

「ハハハハハハッ!!! メフィストよっ!!

 

 ついに始まったぞっ!! 愚かな人類への粛清の時が!!


 皆が愛した前田郁恵は巨人となってこの地上を踏み鳴らしていくのだっ!!」


 砂埃が舞ったせいで視界の悪い、暗い洞窟の中でファウストは咆える。

 同志となったメフィストと共に共謀したグレートリセット。

 その計画の大部分を担う、人類への粛清が始まろうとしていた。


 悪魔を生み出す召喚器は破壊されたが、壺の中に入った前田郁恵は生贄となった舞原市市民の魂を魔力として吸収し、想像を絶する巨大な悪鬼と成り果て地上へと降り立った。

 

 まだ、洞窟から抜け出せなくても、それがいかに大きく危険であるかは、何度も響く震動で嫌でも分かってしまうものだった。


「黙れよ……消え失せろ!! てめぇの戯れ事はもう聞きたくはねえんだよ」


 アンナマリーの意思を代行するように言葉を発した蓮は黄金銃の引き金を引いた。


 日夜、キャンパスへと向かう蓮は暗がりでも集中していれば視界が見える。

 その習性を利用して、蓮は相手に気付かれることなく、白衣の科学者を射殺した。

 その場に倒れたファウストは血を流しながら抵抗もなく命を落とし、辺りは水の音と異様な足音が響き、人の気配が消え去ってしまったようだった。


「奈月……俺はお前を失うわけにはいかない」


 まだ、人を殺した直後で感情が高ぶったまま、マギカドライブを使い、反動で気絶した奈月を蓮は抱きかかえた。


(あの男は間違いなく殺したが、ディラックの姿が見えない……。

 奈月が意識を失っている今、もし奴と遭遇すれば危険すぎる。

 当初の最優先任務である召喚器の破壊は成功した。

 なんとか洞窟を抜け出し、他の仲間と合流するのが先決だ)


 総合してみれば、想定されていた敵戦力のほとんどがこの洞窟に潜んでいた。

 それを考えれば、他の仲間の被害は小さいと蓮は予測することが出来た。


 蓮は一度は邪魔に入ったディラックの姿が見えないその隙に、奈月と共にこの洞窟を脱出することに決めた。


 霊脈のある奥地を目指し、一度は歩いてきた道のりを引き返す。

 奈月の身体を両腕に抱えたまま、蓮は暗い洞窟の中を駆け抜けていく。

 マギカドライブの発動で洞窟が崩れて道が塞がる可能性があったが、幸いにも道は続いていて、蓮は汚れた白衣を脱ぎ捨て、黒い長袖のワイシャツ姿で足場の悪さに気を付けながら走った。

 

 気絶して起きる様子を見せない奈月。いつも蓮のためを想って行動してくれる少女を見捨てるわけがなかった。


「せ、せんせい……」


 蓮に抱えられ、身体が揺れる中、ようやく目を覚ました奈月は捨てられた子犬のような弱々しさで呟いた。


「もうすぐ地上に出る、大人しくしていろ」


 いつものクールな調子で蓮は目を覚ました奈月に声を掛けた。


「はい、愛しています、せんせい……」


 まだ身体に力が入らない奈月は蓮の優しさに触れ、傍にいてくれていることに幸せを感じると、蓮の二の腕の感触を握って確かめ、もう一度大人しく瞳を閉じた。

 

 そして、長い距離を走り、息苦しいほどに疲労感が襲い掛かってくるが、なんとか蓮は奈月と共に地下水道を抜け、地上へと上がった。


 ようやく地上へと上がり、息が上がっている蓮の姿を見ると、奈月は一人で立ち上がり、感謝を伝えて車を停めた場所へと並んで歩いた。


 地響きのような足音が響く中、車までやってくると、ちょうど速度を上げて車を走行させていた黒江が一人で到着したところだった。

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