第二十九章「終末への激闘」7
俺は奈月と共にアンナマリーの姿を必死に探し歩いた。
そして、口から血を流し、胸に深い傷を負って息絶えているアリスのそばにその姿をついに見つけた。
―――マリーちゃん……!!
奈月が倒れているアンナマリーに駆け寄って声を掛けると、顔を覗き込んだ。
もう……重傷を負って力尽きたように見えたが、アリスと同じく精巧な人形のように美しいアンナマリーは疲れ果てた表情をしながらもゆっくりと瞳を開いた。
「奈月……じいさんの仇を討ったよ。うちはさ、ずっと世話になってばっかだったけど、やっと恩を返すことが出来たよ」
宝石のような瞳からはその輝きが薄れ、掠れた声をしており、息苦しそうにしながら懸命にアンナマリーは奈月を見て言った。
「そんなことどうでもいいよっ!!
何でこんな無茶をするのっ!!
こんな傷、治らないよっ!!」
惨たらしいほどにアンナマリーの変わり果てた姿を見ると、必死に肩を掴んだ手は震え、もう奈月の涙は決壊して止まらなくなった。
破れた服からは皮膚が露出し、至る所に出血の痕が残っている。
銃弾が何発か何十発かも分からないほどに身体の奥深くまで抉っているのか、真っ赤に染まる焼け爛れた皮膚は、とても治療してどうにかなる状態ではなかった。
「もう助からないってことは、うちが一番良く分かってるよ。
だからさ、奈月……先生を頼むな。こいつのことを心から愛してるんだろ?
本当はさ……先生と同じで奈月をこんなことに巻き込みたくなかったんだ。
でも、それを言い出すことは最後まで出来なかった。
奈月が友達になってくれて、一緒に戦ってくれて本当に心強くて嬉しかったからな。
だから……これからは自分のために生きろよ。
もう、うちに遠慮しなくていいからな」
立ち上がる気力さえもない、アンナマリーは最後の力を振り絞り、腕を上げて弾切れになった黄金銃を手渡すと、涙を零し続ける奈月に掠れた声で語り掛けた。
「やだよマリーちゃん……いかないでよっ!!
あたしは……いつまでも三人一緒が良かったの!!
もっと話したい事いっぱいあるんだから!! 一緒に行きたいところ、たくさんあるんだよ!!
それにね、一緒に卒業したかったの!!
だから、お願いだよっ!!」
冷たくなる空気の中で、抵抗虚しく身体も刻一刻と冷たくなっていく。
虚ろ眼で口を開くアンナマリーからは、もう声を出す気力さえもなく、口をパクパクさせて意思を伝えるのみだった。
奈月は感情を溢れさせ、血に染まりもう助けることの出来ないアンナマリーを抱き寄せ、声を掛け続けた。
俺は二人の掛け合いを聞きながら、アンナマリーが俺を見て何かを言わないように、目を合わせないように必死に視線をそらし続けた。
そうしなければ、到底耐えられる痛みではなかった。
「マリーちゃん……マリーちゃん……ああああああぁぁぁ!!!」
アンナマリーが安らかな表情を浮かべ、ゆっくりと目を閉じると、奈月は甲高く大きな声で叫んだ。
必死に抵抗しても、痛みから逃れようしても震え出す身体。
亡くしてはならない大切な人を亡くした痛みからは、決して逃げることは出来なかった。




