第二十八章「ホワイトサンクチュアリー」2
集合場所まで歩く間、凛音は茜と腕を組んだまま歩いていて、私はいつの間にそんなことをする関係になったのかとまた頭を抱えたくなった。
娘の凛音にとって茜の存在が心の支えになっているという事なのだろう。認めたくないがこのまま依存が進めば由々しき事態だ。
いや……凛音を男に取られるくらいなら、このまま茜と仲良くしてくれた方がいいのか?
考えれば考えるほど気分が悪くなりそうで、深みに嵌まってしまいそうだった。
駐車場近くにある裏門までやってくると、既に全員がそこに集まり待機していた。
私が自動車で登校した後に徒歩で歩いてきた羽佐奈さんは薄ピンク色のロングコートの下にフレアスカートを履いてきている様子で、戦闘に向かう前とは考えられないほど実に上品で優雅なファッションコーディネートをしていた。
着飾ることで戦意を高める、そういう意図があるなら少し茜たちと似ているのかもしれない。
三浦友梨さんは待っている間に目を閉じて精神統一をしている様子で、慌てた様子も不安を訴えることもなく、それだけ覚悟が出来ているのか、最初に来た時から大きく変わった様子はなかった。
羨ましいくらい魅力的な容姿をした白人美少女のアンナマリーさんは待つのが辛抱行かない様子で降り積もった雪を蹴って憂さ晴らしをしていて、昨日話しをした奈月さんは守代先生の横で静かに待っているようだった。
奈月さんはまだ渡したネックレスを自分で持っているのだろうか。
守代先生の婚約者、清水沙耶と瓜二つの容姿をしているということも彼女を最初に見た時は驚かされたが、今日は意味深に感じるほどに艶っぽい肌艶をしていて、普段のように守代先生にいちゃついたりしていない。
ただ、揺るぎない決意を胸に時を待っているかのようだった。
守代先生はタバコを吸いながら退屈そうに待っていて、まだ緊張しているようには見えない。
そして、私が来たことで学園長からの挨拶が行われると、守代先生は二人を連れてすぐに車に乗り込んで行ってしまった。
私は羽佐奈さんと三浦さんを連れて、駐車場まで向かうと茜と凛音が最後まで付いてきて見送りをしてくれた。
何度も仲間を失いトランス状態に陥ることになっても、茜はこうして人前では明るく振舞い続けている。精神が崩壊してもおかしくないような経験を経ても未だ熱い闘志を燃やし続けられるのは、それだけ芯の強い茜だからこそだろう。
「先生、朗報を待っています。平和な世界のために」
茜の優しい言葉は私の心にまで染み行くように届いた。
信じてくれているのだ……至らない事ばかりだった私の事を。
「茜、わがままな凛音の事、よろしく頼むわね」
瞼を開き、力強く瞳を輝かせる茜に私は言った。
「はい、行ってらっしゃいませ」
私の言葉に凛音は何か言いたげだったが、堂々と茜が答えるとウットリした目で口を開くのを止めた。
「青春ねぇ……これは何としても負けられないわね」
羽佐奈さんが首を横に向けてムードのない意味深な視線で私を見た。
この二人の関係を羽佐奈さんがどう見ているかは容易に想像がつくが、それを言葉にするのは遠慮願いたいのが本音のところだった。
「さぁ、行きましょう。ここからは反戦攻勢よ、平和な日常を取り戻すために尽力しましょう」
私は簡単な言葉で発破を掛けると運転席に乗り込んだ。
最後まで手を振ってくれる少女達に見送られながら、私達大人は三人揃って決戦の地へと向かった。




