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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十七章後編「決戦前夜~この愛に意味があるとするならば~」5

 すっかり夜になって、制服に再び着替えて美術室を出た奈月は、裏門から出ようと歩いていると保健室の前で退屈そうに煙草を吹かし佇む黒江と出会った。


「あたしに用があるんですか? だから、そこで待っていたんですよね?」


 周りに人の気配はない。奈月にとっては予期せぬ遭遇だが、この場所を通ることを見越した待ち伏せに感じた。


「ええ、その通りよ。今日の内に渡しておきたいものがあったから」


 奈月の存在に気付き、黒髪を揺らして意味深にも黒江がそう言うと、奈月は警戒しながら足を止めた。

 奈月にとって大人の女性である黒江は正義感はあっても思考の読めない不気味な存在だった。


「渡しておきたいもの?」


 奈月は予想の付かない話についていけず、内面の見えない黒江の表情を凝視した。


 携帯灰皿に咥えていた煙草を入れると、黒江はゆっくりと足音を立てて奈月に近づいていく。

 身長差のせいで見下ろすような状況になる中、黒江はベージュのチェスターコートから宝石の付いたネックレスを取り出した。


「あなたが一番判断力がありそうだから。アンナマリーさんが使うか、あなたが使うかは任せるわ。もちろん、守代先生に渡してもいい。

 でも、これは魔法使いにしか使えないから。あなたに託すわ」


「これは……」


 金色のネックレスチェーンと共に鮮やかに深い赤色に輝く宝石。

 手にひらの上で揺らすだけで燦然と輝くその宝石の名は柘榴石(ガーネット)に間違いなかった。

 黒江から手渡された高価なプレゼントを奈月はまじまじと見つめた。


「マギカドライブ、リリス討伐の時にあなたも見たはずよ。


 宝石には私の魔力が込められているわ。これまで出来なかった強力な威力を発揮できる魔力行使も可能になるはずよ。


 地下水道にはこの災厄を終わらせるために破壊しなければならない召喚器がある可能性が高いわ。


 それを一度に破壊する手段として使ってちょうだい。

 きっと、必要になるときが来ると思うわ」


 マギカドライブ発動のキーとなる膨大な魔力が内包された宝石。

 貴重なその一つを黒江はあえて奈月に託した。


 未来の光景が目に浮かぶように、黒江は話しをすると、後の事を奈月に託すと、そのまま駐車場へと向かって去って行った。


 直接会話する機会がほとんどなかった黒江との唐突過ぎるやり取りに反応できないまま一人になった奈月はマフラーを一度外し、早速ネックレスを首に掛けた。


「先生……マリーちゃん……大変なものを託されてしまいました。

 

 でも、自分にも力になれることがあると思うと、どんな未来がやって来ても怖くなんてないって思えます」


 闇を照らすように、奈月の胸元で光を放つとっておきの赤い宝石。

 蓮と初体験を迎えた直後に、奈月は実った愛情を先の未来まで持続させるために最適な宝石を手にして、新たな勇気をもらうことになった。


 想いをさらに高ぶらせ一人暮らしをする家に帰ろうとする奈月は校舎から出ると、空から白い雪が舞い落ちて来ていることに気付いた。


「そりゃ……寒くて当然か」


 夜空を見上げると冷たい雪が頬を濡らした。


 体感としては有り得ない速度でやって来た冬の季節。

 その象徴である雪が降り注ぎ、一層寒さを厳しく感じた。


「先生……見ていますか、綺麗な雪ですね」


 シンシンと降り続く白い結晶。


 非日常的な体験を積み重ねる日々に奈月は笑みがこぼれた。

 

 同じ雪を蓮も見ていることを奈月は想像しながら、帰り道を一人歩く。


 まだ抱き合っていた感触が胸の中にあるおかげか、吐く息は白く染まっても思った以上に寒さは感じなかった。


 こうして、奈月は寒空の下、愛し合った温もりを胸に、強い決意を持って明日の決戦へと向かおうとしていた。


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