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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十七章前編「思い出を刻む衝動」6

「まず、この異変を終わらせるためのヒントになればと思い、調査したものを分かりやすいよう話させていただきます。

 

 これは、赤津探偵事務所の探偵としてのものというより、魔法使いの一人としての調査になります。


 私はこの数日間、異変の原因となるものが何か調査してきました。

 そこで分かってきたことは、今回の異変には間違いなく、悪魔召喚のための工房と召喚器の存在があると思われることです。


 今回、舞原市全域を覆いつくしたファイアウォールは外部との繋がりを遮断する効果があります。これは広範囲に作用する強力な魔力結界であり、私の保持する魔力行使をフル活用しても、羽佐奈と二人で突破するのが限度でした。


 これほどに規格外の魔力結界は、現存する魔法使いに作り出すことは現実的には不可能でしょう。


 さて、再度誰かを同様の手段を用いて舞原市の外へと移送する際には、マークされている危険性があり、現実的ではありません。

 そのため、舞原市と外部との行き来は今なお困難と言わざるおえません。

 

 また、このファイアウォールは相当な規模の魔力行使によって維持されていると考えられます。

 私の推測が正しければ、ファイアウォールの展開もその維持も、上位種のゴースト、その中でも突出した能力を持つ悪魔の仕業によるものでしょう。


 現在、舞原市内で確認されている悪魔はヴァンパイアは消滅しているものと考えて三体います。これだけでも異例の事態ですが、これ以外にも召喚されている可能性はあります。目的は置いておくとして、いずれにしても人類に敵対する悪魔によってこの異変は始められたのでしょう。


 上位種のゴースト、その中でも強力な悪魔の召喚には召喚器が必要と言われています。

 それは、他の街で召喚されたリリスについての調査報告から推測できます。

 リリス召喚の儀式の際にも召喚器が使用されており、集めた魔力を利用して召喚が確認されました。


 私は今回も同様と考えて、強力な悪魔の召喚のために魔法使いの魂を手っ取り早く魔力に変換するために有効な手段として召喚器に捧げているものと考えています。


 ですので、我々の目的としては上位種のゴースト、悪魔を全て撃破して街の安全を確保することと召喚器を破壊する、またはこちら側で管理可能な状態にして確保することにあります。


 さて、上位種のゴーストの現在位置を特定することは難しいですが、彼らはまず召喚器の防衛を行っていると考えられるでしょう。


 私は調査を進める中で召喚器の所在を二か所まで絞り込みました。

 上位種のゴーストが待ち構えている可能性があり、突入するには危険な場所ですが、ここで紹介いたします。


 一か所目は最も可能性の高い場所、稗田先生からの情報もあって調査しました浮気静枝の住まいで住宅街にある洋館です。

 こちらには現在、強い瘴気が漂っており、内部には強い霊の気配が漂っています。稗田先生にも確認して頂きましたが、以前とは比較にならないほど状況は異なり、より人を寄せ付けない得体の知れない様相になっています。


 もう一か所が守代先生が以前に上位種のゴーストの一体、メフィストフェレスと初遭遇したという地下水道の奥です。


 こちらは先生の調査報告書から捜査を進めました。

 

 調査の結果、深層には霊脈があり、そこはパワースポットとなっています。

 そのため、魔力を集めるのに有利な環境となっていることから、ここに召喚器を設置して悪魔召喚を密かに行っていた可能性があります。

 こちらも上位種のゴーストと遭遇する可能性が高いことから注意しなければならないことに変わりありませんが、直接奥まで調査する必要があります。


 調査報告から必要な部分を抜粋しましたが以上になります。

 今後の方針を決めるのは皆さまにお任せします。では会議の方、よろしくお願いします」



「あの……質問よろしいでしょうか? 召喚器とはどのような物なのですか?

 これほどの災厄を世に放つのはそう簡単なものではないと感じていますが」


 キリのいい形で友梨の説明が終えたところで、ドアの近くに立っている手塚巡査が手を挙げて質問をした。

 アリスプロジェクトのメンバーのように心得がないものにとっては信じがたい話しが多く、疑問を投げかけたくなるのは当然の事だった。


 着席しようとした友梨は、質問に答えようと少し考え込むと、続けて説明を始めた。


「魔力の存在を信じないものにとってはこれまでの現象も原因不明の天災として語られることになるでしょう。

 

 それを疫病やサイバーテロ、精神疾患や気象変動と分類するかは人の勝手ですが。


 しかし魔法使いとして超能力を理解し行使するものにとって、人命や環境に様々な悪影響を与えるゴーストの存在は退治可能な敵となります。

 そして、さらに上位の存在であるゴースト、その中の神話の存在に位置する悪魔を召喚するにはそれ相応の儀式が必要であるのでしょう。


 科学が発達した現代において、信じる者が減ってしまった影響でオカルトの類を呼び寄せるのはさらに困難なものになっていると考えられています。


 そのため、魔導書を用いて儀式を行ったとしても現界させるだけの魔力を引き出すことは出来ません。つまり本人が強く信じて願っても世界の側が受け入れないということです。


 願望機とも言える召喚器をつかうのはそのためです。

 今回、具体的にそれがどういったものかは分かりませんが、悪魔召喚のために必要な膨大な魔力を貯蔵することの出来る物質的な魔道具の類いでしょう。


 魔法使いの魂を贄として媒介に加えている辺り、許しがたいかなり悪質なことに興じていることに変わりありませんが」

 

 想像上の存在を具現化する、そのための儀式であるからこそ、神話の存在そのものでなくとも、災厄を呼び寄せる”悪魔”と呼ぶに等しい人類の脅威も呼び出すことが出来る。


 ついていけない話の連続に、自分に出来ることは限られていると悟り手塚巡査は無理やり自分を納得させて押し黙った。


 長い説明を終えると友梨は少し話し疲れた様子で席について一息ついた。

 各々頭の中で情報を整理する中、蓮が口を開いた。


「それでは全ての悪魔を殲滅させるためにも二手に分かれましょう。

 俺は二人の魔法使いを連れて地下水道に向かいます。

 そこに召喚器があるなら、きっとメフィストが待ち受けているはずです。

 悪魔を消し去り、召喚器も見つけ出し破壊する、そのために向かわねばならないなら、俺が行きましょう」


 メフィストの討伐は自分がしなければならないという意識を持っていた蓮は迷いなく地下水道の奥に出向く事を選んだ。

 すぐに舞原市の外に行けるわけではないが、説明をすれば奈月とアンナマリーも付いてきてくれる、そう確信することができた。



「そうですか、では私と友梨はその上位種のゴースト側に付いている浮気静枝さんが住んでいる洋館に向かいましょう。稗田先生、案内を頼めるかしら?」



 蓮の覚悟を聞いた羽佐奈は自分のすべきことを見定めて、戦闘には参加できないがこれまで魔法使いに同行し見守ってきた黒江と共に洋館へ行くことを選んだ。


 両者の提案に対して異論は出ず、むしろ早期解決を求めていたメンバーは決戦の時を待っていたほどだった。


「えぇ、分かったわ。但し、同行するのは私一人よ。

 茜は一度トランス状態に陥ったこともあって負傷中の身だから連れては行けない。雨音もゴースト化しかけた経緯がある。同様に連れてはいけないわ」


 異変が始まってから、上位種のゴーストとの戦闘などの影響で黒江周りの状況は著しく変わってきた。

 社会調査研究部のメンバーは茜と雨音だけになってしまい、これ以上危険な場所に連れ出し犠牲にするわけにはいかないと黒江は考えた。

 羽佐奈と友梨を頼らざるおえない、それが現実だった。


「了解、行くなら少人数で行く方がいいと思っていたから問題ないわ。

 後は内藤玉姫さんがどうするか本人に確認するだけね。

 準備が出来次第、作戦開始と行きましょう」


 黒江と羽佐奈は視線を合わせ、意思を確かめ合った。

 避難所の物資も限界を迎える中、自分たちが問題解決のために総力を尽くさなければならないことはよく理解していた。


 二人のやり取りを聞いていた他のメンバーは危険であるとは感じつつも、羽佐奈の実力を信じるしか道はなかった。


「それでは、夜に仕掛けるのは危険ですから、明日にしましょう。

 時刻が確認できない以上、準備をしている間に夜になっては面倒です。

 今日の作戦実行は控えましょう」


 蓮が続けてそう話すと、学園長も理解を示して余計な口は挟まずゆっくりと頷いた。

 それぞれの役割が決まると、決戦の時がすぐそこまで来ていると分かり、気が引き締まる思いになった。


「えぇ、陽が昇ると共にこの学園に集合、全員の安否を確認して、作戦開始と行きましょう」


 ついに、この先の見えない異変に終止符を打つ作戦が開始される。

 決して万全とは言えないが、黒江はこの場にいる全員と協力し合えることに感謝した。


 こうして会議は終わり、この異変を終わらせるために動き出し始めた。

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