第二十六章「君の知らない私のこと」6
心身ともに疲れ果て、魔力も消耗していた私は家に帰ると気絶するように眠った。
翌日、夢の中で麻里江と千尋に会っていたような余韻を感じる中、目を覚ました。
身体が鉛のように重く、着替えもしないまま寝たせいで寝起きは最悪の気分だった。
一体何時間寝ていたのだろう?
凄く長い時間寝ていたような感覚がする。
空は相変わらずの不機嫌さでまるで時刻を計る参考にならない。
止まってしまった時計をずっと眺めていても埒が明かないので、私は懸命に気怠い身体を起こして部屋を出た。
家の中は人の気配はするのに異様なほどに静かだった。
電力が止まり停電したままなのは仕方ないが、それにしても家中が暗く寒気がする居心地の悪さだ。
それから、私はすぐに異変の正体に気付くことになった。
和室で一人眠る祖母も、両親の寝室で眠る母親も、子ども部屋で眠る太一と暘二も、身体を揺すりいくら声を掛けても、ピクリとも反応せず、起きなかった。
呼吸はしていることから生きてはいることは確認できたが、まるで起きる様子がない。
まだ夢を見ているのかと思ったが、頬をつねると確かな痛みを感じた。
これは誰が望んだ結果だろう?
もしかして私が望んだことなのだろうか?
魔法使いには未知の部分が多い。可能性は低いが私が知らない間に魔力を発現させ、今の状況を作り出したのかもしれないと思った。
必死に起こそうとしてみたものの時は過ぎ、これ以上どうしようもないと悟ると、恐ろしいことに私は今の状況に安堵していることに気付いた。
どうしたことだろう……悪魔にでも成り果ててしまったのだろうか。
痴呆が酷くなり、今の状況も分からないほどに認知症の進んだ祖母。
年々大きくなり、私の言う事を聞かず我が儘になっていく二人の弟。
もう、身勝手で無責任な、本人も話したがらない夜の仕事をしている母親。
家族全員が深い眠りに落ち静かになった。
私はあらゆる面倒事から解放されたような感覚になり、急に脱力感を覚えた。
もう……私は何も頑張らなくていいんだ……。
家族を守る為に、奔走する必要がなくなったんだ……。
あまりに唐突に訪れた変化に私は乾いた笑いが止まらなくなった。
そして、気付いた時には涙が止まらなくなっていた。
私はこの異常な世界でどれだけ自分が壊れてしまっているのかを実感した。
あぁ……終わりは近い、私ももうすぐみんなのところに行く。
そうしたら、この身に背負った罪からも解放される。
そう考えると、麻里江にも千尋ちゃんにも、可憐にも早く会いたいと思った。
何も変わらない安寧の時が過ぎていく。長い夜が始まり、また明けてしまっても、誰一人目覚めることはなかった。




