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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十六章「君の知らない私のこと」5

 避難所になっている凛翔学園付属の体育館は、布団や段ボール箱を敷き避難している人でいっぱいだった。

 なんとか場所を確保してゆっくりできるかと思っていたら、弟二人はあっという間に運動場まで行ってしまった。

 運動場では炊き出しが決められた時間に行われる一方、空いた時間はボール遊びなどをしている子どもが目立つ。

 狭い体育館で塞ぎ込んでいるよりも広い運動場で走り回っている方が健康にもよく、安心できるというものだが、無邪気な弟達の姿を見ていると、辛い気持ちになってしまう自分がいた。


 しばらく避難所で過ごしていると母親が今更姿を現した。

 感情的に不平不満を口にし、機嫌は悪い様子で近寄りがたい雰囲気をしていて、どうやら自宅に置いてきた書置きを見てやってきたようだった。


 母親は大勢の人がいる避難所を居心地が悪いと判断したようで、すぐに家族を連れて帰って行ってしまい、納得できない私は結局一人になった。


 私が責任を感じて思い悩んでいた時間は何だったのだろう?

 苛立ちよりも無力感の方が勝っていた。

 

 私は体育館の中にいる理由もなくなり外に出た。

 すると、黒い煙がこちらに迫ってきているのが分かった。

 私はそれが有害な瘴気であることに気付き、強いゴーストの気配を感じ取った。


”何だあの黒い煙は……”

”気味の悪い化け物が迫って来るぞ!!”


 そして、人型のシャドウが避難所まで迫って来るのを見ると、私は知らんぷりすることは出来ず、魔力で杖を発現させ、一人戦うことに決めた。


「下がっていてくださいっ!!」

 

 制服姿のまま、声を張り上げて周囲の人々に呼びかけると私は一歩前に出た。


 本気で戦うのはいつぶりだろう。一人で戦った経験なんて記憶にない。


 恐怖に震えそうになる。しかし、私がやらなければ大勢の人が犠牲になる。それだけは許容できることではない。


 私は発現させた杖に魔力を込め、瞳を閉じて頭の中でイメージを膨らませた。


「ここで食い止めらなければならないって分かってるから!!」


 そして、覚悟を決めると目を開き、迫るシャドウに向けて光弾を撃ち放った。


 高速で襲い掛かる光弾を受けたシャドウは断末魔を上げ光の中に消えていく。私はガンシューティングの要領で狙いを外さぬよう狙撃を続けていく。


 無数に溢れる敵が一体でも私の下まで到達すれば敗北が決まる。無駄のない集中力が最も大事とされる戦い。戦闘に意識を集中させると周囲の声は気にならなくなった。


 私はいつか戦わなければならない場面が訪れることを想定して、鍛錬だけは欠かさなかった。

 光の玉を頭の中でイメージし、意識的に魔力を集束させ光弾を作り出し、的確なコントロールで対象にぶつける。実戦でほとんど使用する機会がなくても何度も練習してきたことだった。

 

 途切れることなく迫るシャドウに光弾を放ち、徐々に息が上がっていく。

 ずっと冷や汗が止まらない。

 それでも、目前まで迫った一際しぶといシャドウに向けて連続して光弾を放ち、黒い身体にいくつも貫通させて何とか浄化させ、ギリギリのところで難を逃れた。


 使用する魔力にも限界がある、このままのペースで魔力を使えばすぐに底を付くだろう。

 そう思い始めた頃、元気な声を上げ、茜が私の下へと舞い降りた。


「雨音、加勢するよっ!」


 魔法戦士の衣装で颯爽と私の隣にやってきた茜は、その手に真っ赤な炎を上げるファイアブランドを握っていた。


 私は昨日今日あったことを謝りたくなったが、茜に勇気づけられ共に戦った。

 

 そして、マギカドライブを発動できないという不甲斐ないところまで見せ、茜が左目を負傷し、最悪の気持ちのまま救世主によって助けられた。

 


 戦いが終わり、神経が張り詰めたまま私は麻里江の死を知った。

 何故、棺の中に麻里江が入れられているのか。認めたくないあまり、現実感のない光景だった。


 まただ……また私は間違えてしまった。

 勇気が出なかったせいで、魔法戦士としての絆も守れなかった。

 麻里江は……本当は求めてくれていたのかもしれない。

 最後に会った親友である私に、一緒に来てくれることを。


 私は一体どれだけ愚かなことをしてしまったのか。


 どうやって、この罪を償い贖罪すればいいのだろうか。


 麻里江を弔うための行列の最中もそんなことばかりを考え続け、提灯を手に後ろの方で小さくなって歩き続けることしか出来なかった。

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