第二十六章「君の知らない私のこと」2
空を分厚い雲が覆い、外との交流が途絶えてから三日目。
茜とアンナマリーとの実力を確かめ合う、喧嘩のような模擬戦闘が終わると、水瀬さんが慌てた様子でやって来た。
息を切らしたまま言い放った内容を要約すると、彼女が言うには静枝さんに関係する恐ろしい夢を見たという。
以前に茜の監禁されていた居場所を特定させるきっかけになったのが彼女の予知夢にあったことから重要な情報としてすぐに受け止められ、私は静枝さんが千尋と麻里江を連れて、桂坂公園に出現したゴーストの対応に向かったことを伝えた。
そして、黒江先生は桂坂公園に向かう必要性を鑑みて、水瀬さんと茜を連れて現地へと向かった。
私は一緒に行くことも出来たが、茜の「家族のところに行ってあげて」という言葉もあり、一緒には行かなかった。
これが、きっと……一つ目の分岐点だったのだろう。
私は家族の様子を確認するため、大人しくそのまま家へと帰った。
家に帰ると、二人の弟は危ないから家から出ないようにしなさいという、私の言いつけを守り、家にはいてくれたがお腹を空かせて落ち着きなかった。
電気が止まっているせいでゲームも出来ず、スマホの充電も切れて退屈していたのだろう。ずっと漫画を読みながら過ごしていたようだった。
避難所に行った方が少しはマシな生活が出来る。そんなことはよく分かっていた。でも、そう都合よくはいかなかった。
家には食料の備蓄はほとんどなく、子どもが喜ぶようなものはなかった。
私は溜息を付き、学園から持ち帰った炊き出しのおでんを一緒に食べようとダイニングテーブルにビニール袋を置いた。
これで食事が摂れて、後はゆっくりするだけだ。そう思っていた矢先、予期せぬことが起こった。
「おねえちゃん!! またばあちゃんが出て行って帰って来ないんだよ!!」
下の弟の暘二が私の服を掴み訴えかけてくる。
「姉貴、暘二の奴がずっとうるせえんだよ。空腹でイライラしてるのに、迷惑な奴だぜ。狭い街なんだから、どうせ誰かが見つけてくれるのによ」
今度は兄の太一が無責任なことを言った。まだ声変わりもしてない十一歳の子どもとはいえ、私はその無責任さに苛立ちを覚えた。
「ちゃんとお姉ちゃんがいない間はおばあちゃんのこと見ていてって言ったじゃない! お母さんがいないのに、無責任なことしないでよ……」
私は感情的になって声を荒げた。悲しい以上に腹立たしさの方が上回っている自分がどうしようもなく嫌になりそうだった。
私は詳しい事情を聞き、一時間も前にいなくなったことに気付いたことを知ると、急いで行方知れずの祖母を探しに出かけた。
慌てて飛び出した私だが、祖母はあっさりと見つかった。
祖母は今が開店前と勘違いしているようで、スーパーの前でずっと立ち尽くしていた。
母親がいつまでも帰って来ない以上、私が認知症の祖母の面倒を見なければならない。
私は祖母の手を握り、憂鬱な気持ちのまま家に帰った。




